「とても美しい、宵闇色の髪。 私を映し出す、何よりも優る碧の瞳。
彼を形成する色が、この世に生まれて初めて目にした・・・世界の色」
本能で、自分のいるべき場所じゃないことは分かっていた。
けれど、私自身を見つめる彼の瞳が・・・彼を形成する全てが美しくて。
少しでも、彼の傍にいたかった。
会って、間もないのに・・・貴方の傍にずっといられる権利が、欲しいと願ってしまったの。
約束 〜 2人の出会い 〜
(キラside)
心地よい微睡みの中にいた彼女は、何かに誘われるようにして、光溢れる外の世界へと出ていった。
その光の中、彼女の目に最初に飛び込んできたのは綺麗な碧。
(きれ…い…)
その碧はとても綺麗で、無垢な彼女の心を惹きつけた。
いつまでも見ていたいと、思った。
ここが自分が本来いるべき所ではないと言うことはすぐに気づいたけれど、そんなことも気にならなかった。
それ程に、それは心惹かれた。
安らげた。
暫く見ていると、その碧が誰かの瞳だと気付いた。
誰かが、自分を見ているのだと。
その眼差しが、優しくて。
心地よくて。
気がついたら、聞いていた。
「あなた・・・だれ?」
と。
「あ・・・ああ、俺は、アスラン・・・アスラン=ザラ」
それに、その人はそう答えた。
アスラン…古き言葉で、“夜明け”だと。
彼女はこの世界でも高位の種族で、その中でも頂点近くに存在することを許された、力在る者。
だから、生まれてすぐでも、ある程度の知識は裡に存在する。
それが、目の前の人の、アスランの名の意味を教える。
そしてもうひとつ。
この人も、ドコの種族かは知らないけれど、自分と同じような存在だと。
だって、とても、綺麗。
名前の通りの、宵闇色の絹の髪も。
肌理の細かい肌も。
その美しい造作の総てが、それを示している。
でも。
彼女にとっては、そんなことはどうでも良かった。
ただただ、綺麗な碧の瞳に捕らわれていて。
その綺麗な瞳を、ずっと傍で見ていたかった。
そう思っていたら、
「ああああああ、す、すまない!」
いきなり、アスランが、叫んだ。
何だろうと思っていたら。
「ご、ごめん。 気がつかなくて」
慌てたようにそう言って、自分の来ていた上着を脱いで、自分に着せかけてくれた。
確かに自分は生まれたばかりで、なんにも着てなかったけれど…。
それを気にかけてくれたのが、少なくとも自分を“おんなのこ”として見てくれたんだと。
それが、嬉しくて。
「ありがとv」
心からの感謝を添えて、微笑ってそう言った。
そしたら、アスランも、笑ってくれた。
それはとても嬉しかった。
けれど、きっとこんなに綺麗な瞳の人だもの。
それに、とっても優しい人だから、その傍には相応しい人がもういるんだろうなと、それだけが少し哀しかった。
「きみ・・・は?」
ちょっと物思いに耽っていたら、そう聞かれた。
一瞬、何を聞かれたのか分からなかったけれど、
そう言えば自分の名前をまだ言っていなかったことに気付いた。
それは、とても失礼なこと。
相手が名乗ったのに、自分は名乗っていないのだ。
だから。
「キラ」
そう、名乗った。
ずっとずっと、優しい声が教えてくれていた名前。
“自分”をあらわすもの。
傍には居られないかも知れないけれど、それだけは覚えていて欲しかったから。
「キラ・・・」
アスランに呼ばれて、とくんと心がひとつ波立つ。
嬉しくて。
自分の名前を呼んでくれたことが、嬉しくて。
それだけを持って帰ろうと、そう思った。
なのに。
アスランはキラの名を呼んだと思ったら片膝をつき、そっと左手をとった。
そうしてその手の甲にに軽くキスを送って、
最初から捕らわれた…捕らわれている綺麗な瞳でキラをっすぐに見て。
「私を照らす星として、共に在ってくれませんか?」
そう、言った。
………
………………
「え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
望む心が、いじましい心が聞かせた幻聴だと。
だってそれは、求婚の言葉。
血が教えるそれは、永の時間を一対であろうとする言葉。
自分たちにとって、それは至上の言葉。
命すら、共にあると誓うもの。
でも、キラはそんな言葉をもらえるほどの何も持ってはいないと思っていたから。
とても…とても嬉しいけれど、そんなことはあり得ないと思ってしまう。
でも。
「キラ? 俺といるのは、いや?」
その言葉は、確かにキラの耳が捉えていて。
問いかけるアスランの表情はとても真摯で。
真実にそう思っているのだと伝えてくる。
でも。
種族―アスランの種族が何かは知らないけれど―によっては複数人を持てるっていうのもあるらしいから、
もしかしたらもうアスランにはそう言う人が、いるのかもしれない。
キラ達の種族は、ダメだから。
もしもアスランにそう言う人が既にいる
―・・・きっと、いると思う。だって、あんなにステキなんだから―のなら、ダメだから。
だから。
「ひとり…なの」
「え?」
「一緒にいるのは、一人だけなの」
そう、言った。
2007/08/15
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