「贅沢な望みなのだろうか。
・・・『アスラン=ザラ』としての俺ではなく、
ただの『アスラン』としての俺を見てくれる者を妻として娶りたいと言うことは」



周りから言われ続けている婚姻。
その必要性は、俺も理解している。


だが・・・子孫を残す為だけに、中身ではなく外見と肩書きだけしか見ないどこぞの娘を娶るつもりはない。
そのような者、俺自身も好感を持てるはずがない。
上に立つ者として・・・必ずしも子孫を残さないといけない立場として、俺の願いは贅沢なのだろう。



肩書きなしの『俺自身』を見てくれる・・・そんな娘が、本当にいるのだろうか・・・・・・。








約束 〜 2人の出会い 〜
                         (アスランside)








「………どうすればいいんだ?」



龍族の若長の一人、アスラン=ザラは、困惑していた。



誰か呼ぼうにも、ここは里の外れで。
というか、誰にも会わないようにとここに来たのだから、居るはずもないのだが。






この日、彼は煩わしい人付き合いを―見合いとも言う―すっ飛ばして、ぶらぶらとしていた。


いや、彼とて分かってはいた。
いずれはどこかの娘と婚姻を結ばなくてはならないことを。



だが、今持ち込まれる総ては、自分の生まれ…龍の若長の一人という、
自分自身の事とは関係のないことによって持ち込まれるもので。
アスラン自身を望んでのものではなかったりする。



いや、勿論アスランの能力は、群を抜いている。
性格も、そんなに悪いとは思わない。
それでも、名はついてまわり…。



それがイヤで、逃げ回っていると、そう言う訳なのだが………。
いや、だからこそ、人気のない、里の外れのこんな所を一人でうろついている訳なのだが……。
取り敢えず暢気に歩いていたら…。





それ、が、見えた。


おとしものが、あった。



一瞬、見なかったことにして回れ右しようかと、本気で思った。
ものぐさというなかれ、そのおとしものは、落とし者…だったりしたのだから。




関わり合いになりたくないと思っても、仕方ないだろう。
それに、周囲にカラが散らばっているところを見ると、孵化してからさほど経ってはいないようで。
事態が面倒くさい展開になるのは、目に見えている。




本当に、逃げ出したいと思った。



だが。



「はぁぁぁぁぁ、仕方ないな」



しかし、さすがに生きているものを捨てておくことなどできないし、
このままここに放っておいて、誰かが見つける可能性は限りなく低い。



つまりアスランが関わらなければ、目の前の存在は高い可能性の元死ぬと言うことで。
さすがにアスランとて、そこまで非情ではなくて。



一つ溜息をつくと、

「おい、大丈夫か?」



そう言って、俯せになっていたその存在を上向かせ、抱き上げようと…した……。



その瞬間。



「え?」



固まってしまった。



だって落ちていたそれは、



「おん…なの…こ……?」



だったりしたのだから。




ついでに。


その衝撃に目を覚ましたのだろうか、その少女が目を開けたのだが。



「…あ…………」



その目のあまりの綺麗さに見惚れてしまった、のだから。


おとしもの…否、少女ははっきり言ってとっても綺麗…というか幼いが故にとても可愛らしかった。



さらさらの茶色の髪の毛。
バランス良く配置された目鼻立ち。
すべすべの、肌理の細かい白い肌。



どれもが素晴らしいものだった。
彼女が“力在る者”であることを語っていた。



だがそんな容姿よりも何よりも、アスランの目を奪ったのは、二つの美しいアメジストの輝き。
強い強い、生きる意志に溢れた、それでいて優しい輝きを宿す瞳。




真っ直ぐに自分を見つめてくる、その光に、その美しさに、一目で心を囚われてしまっていた。



「あなた…だれ?」



そんなアスランを現実に戻したのは、聞こえてきた声。
正に鈴を振るようなと言う表現がぴたりと当てはまる、涼やかな声。



それが、目の前の幼子の発したものであると認識した時。



「あ…ああ、俺は、アスラン…アスラン=ザラ」



漸く固まっていたのがほぐれて…名を、名乗った。


そして、お前は…と尋ねかけて、慌てる。



「ああああああ、す、すまない!」



そうよくよく考えてみればーというか、考えなくとも見ればー分かることだが、彼女は産まれたばかりなのだ。



当然、裸で……。



「ご、ごめん。 気がつかなくて」



そう言いながら、アスランは上着と中に着ていた服を脱いで、彼女に着せてやる。
それから飾り帯も外して、着せた服を纏めるために使う。



「ありがとv」



それに対して返された微笑みに、くらくらした。
容姿の綺麗さにもだが、何よりも裡から輝くものに。



今まで、誰かが自分を好きだという度に、嗤っていた。
自分のことなどよく知りもしないくせに…と。




けれど、今。


アスランは、目の前の少女に一目惚れしているのだ。
彼女のことなど、何も知らないというのに。
ただただ、その存在に惹かれていた。

そして心から思う。
この少女の隣に立つに相応しく在りたいと。
守りたいと。
そして何よりも、この少女に認めて欲しいと。
自分という存在を。



だから。
先ほど途切れた問いを、重ねる。
何とか根性で立ち直り、微笑みらしきを浮かべて。



「きみ…は?」



存在を、名を、問う。
力在る者は、名を持って生まれてくる。
いや、その存在が、名を顕すのだ。


アスランは、夜明け。
闇を払い、光をもたらす者であるという。



ならば、彼女は?



「キラ」



そんなアスランの想いを知らぬ気に、彼女はそう…言った。
キラ。
闇の中、輝けるひとつ星だと。



その名に、アスランは歓喜を覚える。
キラが。
夜明けと共にある、明星であれと願う。




だから。



「キラ…」



名を呼び、片膝をつき、そっと彼女の左手をとる。
そうしてその手に軽くキスを送って、自分をとらえた紫の瞳をまっすぐに見て。



「私を照らす星として、共に在ってくれませんか?」



そう、言った。


















2007/07/31