「彼女に会えば、解る。 彼女の容姿は、美しすぎて・・・忘れられないから。
鳶色の髪に菫のように、綺麗な紫の瞳。 とても、綺麗な彼女を・・・俺は覚えている」
彼女が・・・母上たちの決めた婚約者?
・・・俺が捜し求めて来た思い出の彼女と似ている。
いいや。
同じ・・・・なのか?
だが、その名が違う。
そのことが、俺を混乱させている・・・・・。
彼女は、果たして俺の捜し求めた人なのか。
それとも・・・外見だけが似ているただの別人なのか。
その疑問も、この一言で解決する。
彼女と俺しか解らない、この一言で・・・・。
――――― 花冠、つくってくれる? ―――――
婚約者物語
― 求める人 ―
アスラン達が部屋に入ると、相手はもう来ていたようで。
座っていた人影が、二つ立ち上がって。
「カリダ、久しぶりねv」
「レノア、相変わらず綺麗ねv」
母がその人影の一つと、いきなり抱擁を交わしてくださった。
それに、アスランは驚く。
良くは見えないながらも、相手の少女もそうらしく、固まっているようだ。
見合いという堅苦しい場で、いきなり女の子ののりではしゃがれても困ってしまうだろう。
ので。
「母上」
呼びかけて、今を分かってもらう。
「あ、ごめんなさい。 久しぶりだったものだから、ついはしゃいじゃって…。 カリダ、これが息子のアスランよ」
それにどうやら今がどういう時であるかを思い出したらしく、少し照れながらも紹介をされた。
それに、礼儀に則って挨拶をしようとした、その、時。
「まぁぁv レノアそっくりねv よろしく、カリダと言いますわ。 こちらが、娘のキラですv」
カリダ女史の後ろに隠れるようにいた少女を紹介した。
自分は少し下がり、彼女がよく見えるようにして。
その瞬間、アスランは彼女を。
彼女はアスランを、正面から見た。
そして。
「え…」
「キ…」
それぞれが小さく、誰にも聞こえない声を発して。
固まってしまった。
あまりにも、信じられなくて。
ただただ、相手を見つめることしかできなくて。
動けなかった。
そんな二人をよそに、母親二人は何かを言っていたが。
アスランにとっては、そんなことはどうでも良かった。
今、目の前にいるのは、ずっとずっと好きだった、求めていた彼女。
栗色のさらさらの髪も。
光をはじく紫の瞳も覚えてるままで。
でも、名前が、違う。
それに、戸惑う。
違うのだろうか?
それとも、彼女が嘘を言ったのか?
確か、彼女の名は「キラ」で。
愛しい少女の名は「キア」で。
…………。
そこで、もしやと思う。
キラと、キア。
とても、似ている。
それに、彼女に会ったとき、自分はまだ4歳になったばかりで。
彼女も4歳だと言ってたし。
自分は早くから口は回った方だけど、それには個人差があって。
自分では「キラ」と言っているつもりでも、単に舌が回ってなかっただけだったとしたら。
そう言えば、アスランが彼女を「キア」と呼ぶと、何となく怒ったような表情をしていたような。
…………
確かめよう。
いくら自分だけでぐじぐじと考えていても、答えは出ない。
アスランの記憶は、目の前の少女が愛しい少女だと確信している。
もし、名前を間違って覚えていただけだったのなら?
だから。
記憶の中、自分と彼女しか知らない約束を言葉に乗せる。
「あの、花冠、つくってくれる?」
と。
あまりにも突然で、脈絡もなく放たれたアスランの言葉に、レノアとカリダが驚いたようにこちらを見ているのが分かった。
それに、ちょっと思う。
唐突すぎたか、と。
でも、彼女が彼女なら、きっと分かるはず。
そう思って、言ったのだ。
だから。
お願いだから、答えをちょうだい?
そんな思いを込めて、彼女を凝視めれば。
「…へ、下手、だけど…」
思った通りの答えが返ってきた。
それに、彼女が彼女であったことに。
何よりも彼女を見つけたことに、アスランの胸の中に、歓喜が踊る。
あの時、彼女は約束したのだ。
今度(そのときは難しかったのかつくれなくて、花を一緒に摘んで、それをもらった)は、花冠をつくってあげるねと。
それが、嬉しくて。
気がついたら、彼女を…キラを抱きしめていた。
レノアもカリダも、アスランのこの行動には驚いていたけど、アスランにはどうでもよかった。
夢にまで見た少女が、腕の中にいるのだ。
抱きしめているのだ。
その想いのままに、ただただ、アスランはキラを抱きしめていた。
「あ…」
そんなアスランが我に返ったのは、キラの声で、だった。
そうだ。
自分は彼女が好きで、ずっとずっと探していて、あえてとても嬉しかったけれど、彼女はどうなんだろう?
それが気になって、抱きしめていたキラの表情を見て。
凍り付いた。
だって、キラは、その綺麗な紫の瞳から透明な雫を零していたから。
それに。
喜びに目隠しされて、考えもしなかった事に気づく。
そうだ。
自分は、嬉しい。
でも、キラは?
10年も前、ほんの少し遊んだだけの相手。
そんな相手を、好きでいてくれるものだろうか?
ましてや、自分は政略結婚の相手として、ここにいる。
自分だって嫌だったのだ。
彼女が嫌でないなどと、自分を嫌い…好きではないと、誰が言えるのだろう?
「ご、ごめん」
その考えに思い至り、抱きしめていた腕を放そうとする。
だって好きじゃないのなら、そんな相手に抱きしめられるなんて、嫌だろうから。
けれど。
「キ…ラ…?」
離れることは、できなかった。
放そうとした腕を、キラが掴んだから。
「えと」
これは、自惚れても、いいのか…な?
彼女も、キラもアスランを好きで、だから離れいく自分を止めたのだと?
そう思っても、いい、のかな?
ねぇ、キラ?
2006/12/05
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