「彼のことは、鮮明に覚えているの。 今まで、彼ほど優しい人に出会うことがなかったから・・・。
紺瑠璃色の髪に、花碇のように素敵な翠の瞳。 とても、優しい彼を・・・・忘れたことは一度もないの」
彼が・・・母様たちのお決めになった婚約者?
心の奥底に封印した思いの彼と、同じ髪と瞳を持つ人。
・・・彼が、あの人なの?
名前の似ている貴方。
コレは・・・夢?
彼に会いたいと思った、私が見せた幻なの・・・?
逢いたいと・・・再び、彼に会いたいと思った私が見せた幻影なの?
けど、貴方の放った一言で・・・・私の心に響く。
彼と私しか知らない、とても大切な「約束」の言葉で・・・・・・・。
――――― 花冠、つくってくれる? ―――――
婚約者物語
― 求める心 ―
紹介された見合いの相手を初めてまともに見て、キラは動けなくなった。
だって、だって、こんなこと、あるはずないって思ったから。
これはきっと夢で、期待して手を伸ばした途端、きっと消えてしまうんだと。
だって、封印すると誓った。
たった一度の幼い…でも唯一の恋をした人が、そこにいたのだから。
見合い相手と…婚約者として紹介されて。
でも。
夢だと思った人は、言った。
『花冠、つくってくれる』と。
それは、大切な約束。
あの日、そっと家を抜け出すのに成功して、
ずっとつくってみたかった花冠をつくろうとしていたときに現れた男の子。
花冠なんて、男の子にはつまらないだろうに、ずっと笑ってつきあってくれた。
名前を、「アス」って言ったっけ。
私の名前を呼ぶのは苦手なのか、「キラ」だって言ってるのに、何度言っても「キア」って言うの。
それだけはちょっと、だったけど、それ以外はとっても優しかった。
ぶきっちょな自分が花冠なんてつくれなくって泣いたときも、優しく頭を撫でてくれて、
「練習すれば、つくれるよ」って、言ってくれた。苦手だと言ってたのに、歌も歌ってくれた。
優しい心が伝わってきて、とてもステキな気持ちになれたっけ。
それに、その時からだった。
歌を歌うことが、好きになったのは。
だって、心が伝わるって、教えてくれたもの。
だから、私は歌を歌うの。
心を、伝えるために。
それに、一緒に花を、摘んでくれた。
お礼にもならないけど、一緒に摘んだ花は、全部あげた。
迷惑かなって思ったけど、彼は笑って受け取ってくれた。
それだけじゃなくって、最後にすてきな約束をくれた。
『今度は、花冠つくってね』
って。
それは、再会の約束。
その約束に、また会えるんだって、嬉しかった。
そんなことは、できないんだって、あの後知ったけど。
それでも、それは、アスと私だけの約束。
それを、彼が、言った。
じゃあ、彼は…アスランは、「アス」なの?
信じられなくて、でも信じたくて。
あれから練習はしたけど、でもそんなにうまくはならなかったけど。
でも、それでも。
信じて、いい、の?
「…へ…下手、だけど…」
つくっても、いい?
そう、答えた。
そしたら、いきなり視界が暗くなって。
気がついたら、彼に抱きしめられてた。
やっぱり。
やっぱり、アスなんだ。
そう思ったら嬉しくて、胸がいっぱいになって、何もできなかったけど。
「あ…」
名前を、呼ぼうとしたの。
胸がいっぱいで、それ以上言えなかったけど。
そしたら、温もりが、離れようとして。
どうして?
アスじゃないの?
そう思ったら悲しくて、離れようとするその手を、掴んでいた。
後で思えば赤面もののその行動に、アスランは驚いたような表情をして。
「えと」
困ったような声を出して、でも、その後で優しく微笑んでくれた。
あの時と、同じ微笑みを。
2006/12/19
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