「必ず、君を見つける。 あの頃の幸せと思った象徴。
君を守るために、君を・・・この手に抱き締めるために」



幼い頃、最初で最後の恋をしました。
君との出会いが、“恋”だと知ったのは・・・皮肉にも君と離れ離れになってから。
何より、君との思い出はとても大切なもの。



俺は、立場上決められた相手と結婚しなければならない。
だが・・・俺は認めない。
こんな、政略結婚なんかを。


あの頃から、決意したこと。
――――― 必ず、君を見つけ出すと ―――――








婚約者物語
   ― 運命の扉 ―








その日、アスラン=ザラは、不機嫌だった。
氷の貴公子とも呼ばれた鉄面皮のおかげで、周囲の人間にはばれてはいないようだが、
その心の内では、あらん限りの罵倒を延々繰り返していたりした。




(一体、何で俺が見合い何ぞをしなくちゃならないんだ?
しかも、相手は生まれたときからの婚約者で、見合いというのも単なる形式に過ぎない? 冗談じゃない。
しかもプラントの未来のための広告塔? 断るという選択肢など最初からない?
そんな政略のコマにされるなんて、まっぴらだ。
ましてや、よく知りもしない相手とやっていけるなんて、父上も母上も、本気で思ってるのか?)




と。



そう。
アスランとて、プラントは大事だと思うし、できることがあるのなら、しようと思う。




だが。
結婚だけは、別だ。
勿論彼にとて、プラントトップである評議会の一員であるザラの者であるという自覚はこれでもかというくらいある。
(…それに付随する、ありがたくもない輩のあしらい方も、不本意ながら、会得した)
あるからこそ、これまでザラの嫡子として恥ずかしくないように行動してきた。
勉強も頑張ったし、スポーツや芸術(…は、ちょっと苦手だが)などなど。
何にでも手を抜くことなく、取り組んできた。


おかげさまで、今ではどこに出しても恥ずかしくないと言われるようになった。



だからこそ、だ。
いや、まぁ、結婚についても、仕方ないと考えていた時期も幼い頃にはあった。




だが。



そう、だがである。
いや、何もアスランとて、見合い相手を毛嫌いしているわけではない。
長く月にいた(父の立場上、暗殺の危険を避けるため、
留学という形でコペルニクスに避難していたのだ)ため良くは知らないが、
相手はプラントでも有名な歌姫だという。
性格もよろしく見目も麗しく、ついでに家柄(評議会議長の娘だそうな)もよろしくと、三拍子揃った、
これ以上はないくらいの相手だとは、知っている。




だが。
そう、それでも。
アスランは、この見合い(というか婚約)をよしとしなかった。
何故なら。



「アスラン、いい加減その仏頂面、やめない?」



そこで、とうとう耐えきれなくなったのか、隣を歩いていた母・レノアがため息混じりにそう言った。




が。



「無理です」



にべもなく、言い切った。



「大体、私は言ったはずですよね。嫌だと。
それを、無理矢理にこんな所まで連れてきたのは、母上たちですよ。
会うのは、会いましょう。 ですから、それ以上、顔のことまで、言われたくありませんね」



そう。
アスランは、最初からこの見合いを断っていたのだ。
イヤだと、言っていた。
理由は、言わなかったが。


それを…、理由が言えないが故にわがままと一蹴され、相手と会うホテルへと強制連行されてきたのだから、
元々この事態を嫌がっていたのとも相俟って、機嫌の良かろうはずがないのだ。



なのに。



「もう。 一体彼女の何が不満なの? とっても良い子なのに」



レノアはどうにも分からないとばかりに、言ってくださる。
それに、思わず、全てです…と言いたくなってしまう。
さらには。



「それに、カリダの子だしv」



それだ。
不平不満は数あれど、それが一番気にくわない。


いや。
勿論ほかのもそうだが、父の思惑は、まだ政略と言うことで分かる。…嫌だが。



だが、母の言い分は一体何だ?
何でも聞くところによると、カリダ女史は母の学生時代からの友人で、
子供が生まれたら結婚させましょうと約束していたらしい。
まぁ、それ程中がよい友人というのも決行だが、普通ならそんな約束は白紙となるのだが、
二人が結婚した相手と、カリダ女史の立場がそれを実現可能なものとした。



だが。
いくら親同士が仲が良かろうと、その子どもが必ず恋愛感情を抱き合うなどと、本気で思っているのだろうか?
はっきり言って、無理だろう。


いや、親愛くらいはもてるかもしれないが…。




それに。
アスランにはそんなことよりも何よりも、この見合いを…婚約を受け入れられない最大の理由があったりしたのだ。



「一体どうして、そんなに嫌がるのかしら」



ぶつぶつというレノアを横目に、アスランはそっとため息を漏らし。



「だって、彼女じゃないから…」



小さく呟く。
それはあまりにも小さくて、レノアの耳に届くことはなかったけれど、それが、
アスランが嫌がり、それでも言えない理由。
きっと両親は、認めないから。




それは月へと行く少し前。
4歳にして少々捻くれていたアスランが、それでも父の言うとおりに月へと避難する前の息抜きにと出かけたところで、
一人の少女と会った。
その子と、名前(自分は「アス」と言った。彼女は「キア」と言った)を言い合って。



ほんの少し、一緒に遊んだ。
そして、「またね」と別れたっきりの子。


名前しか、知らない。
どこの子かも、知らない。

でも、会いたい。
あの子と、一緒にいたい。


連絡先を聞かなかったのを、アスランはどれだけ後悔しただろう。
それでも、できる限りの手段をして、彼女を捜した。
でも、見つけられなかった。
でも、諦めはしない。

必ず探し出して、言うんだから。
そのためにも。
この婚約、ぶちこわしてやる。


相手の子は、泣くかも知れないけど、でも、それだけは譲れないから。
だから、ごめんね。




そう心で相手に謝罪をして、アスランは扉を開ける。





運命の、扉を。


















2006/11/28