「・・・この心は、だれにも分からないように封印します。
・・・だから、密かに想う事だけは、お許しください・・・・・」
幼い頃、最初で最後の恋をしました。
・・・あの頃は、まだ幼かったからそれが“恋”だとは気付かなかった。
けど・・・あの頃の貴方といた日々が、今でも鮮明に思い出せるの。
私は自分の生まれた立場上、決められた方と結婚をしなければならない。
まだ、その時期ではないけど・・・この悲しみによって染められた戦争が終わり次第、結婚することになるでしょう。
その事に対して、私は何も言えない。
だって、そのことは前々から分かっていたもの。
けれど・・・・心の奥底で貴方をこの先・・いえ、未来永劫愛することを許してください・・・・・。
婚約者物語
― 運命の日 ―
その日。
母の言葉に、今から婚約者と会うのだと言われた言葉に、ああ…と。
とうとうその時が来たのだと、思った。
プラントの指導者の一人である…評議会議長である母の娘として生まれたけれど、
自分は恵まれるほどに自由であったと思う。
それは勿論立場とかで色々制約はあったけれど、それでも心は自由だったと思っている。
本当に嫌だと思うようなことはしたことがないし、母も、周囲の人たちも嫌なことを強制をしはしなかった。
本当なら母の跡を継ぐべく、政治を目指すのが本当だろうに、好きな歌を歌うことを、認めてくれた。
それに少々の思惑はあったとはいえ、嬉しかった。
それに、友達も選ぶことができた。
本当に好きになった人と、友達になれたのだ。
家柄とか、そんなことは関係なしに。
反対もされることなく、母は彼らを私の友人として認めてくれた。
そう。
本当に、私は自由で、恵まれているのだ。
他の、同じ立場の人たちと比べても。
でも、たったひとつ。
自由に恋をすることは、好きな人と結婚することだけは、自由にならない。
自分は、プラントの評議会議長の娘なのだ。
政治的な関係に、嫌が応にも無関係な立場ではいられない。
実際、この婚約は今更に結ばれたものではないという。
自分が生まれたときには、いいえ、生まれる前から、決まっていたという。
母と、その相手の方のお母様が、親友であるとはいえ、お父様は母と同じ評議会議員。
当然、繋がりの強化を求めるという点もないわけではない。
それならば、しかたがない。
それに、噂で聞くだけだけど、相手の方は、素晴らしい方らしいし。
母も、とてもよい方なのよと誉めているし、きっと素敵な人なんだろう。
なら、きっと、うまくやっていけると思う。
だから…。
私は、母の言葉に頷いた。
はい、と。
……たった一つだけ、秘密を抱えて。
私はきっと、婚約者を愛するだろう。
いいえ。
愛します。
でも。
心の奥の奥…。
そこに、ただ一人を住まわせることを許してください。
私の、たったひとつの我が儘。
それを、許してください。
決してそれは、表には出しません。
いいえ、そんな想いを持っていることを、見せはしません。
死ぬまで…いいえ、死んだ後にすら、自分の中に封印しておきます。
だから。
この想いだけは、取り上げないでください。
幼かった私の。
小さな想い。
それでも、たった一つの。
今までの私を支えてくれた、想い。
一生に一度だけの。
あの人への、想いを。
そんな悲しい思いを秘めて、少女は婚約者と会うために、母と共に市内のホテルへと向かった。
2006/11/21
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