「キラ、一緒にいてくれる?」



愛する人は一人だけでいい。
それは、紛れもない俺の本心。
確かに、俺の属する一族は一夫多妻制。


だが、俺はそんな掟にまったく興味がない。
ただ一人。
ただ、一人だけ俺個人を見てくれる者が傍にいるだけでいい。
俺自身を見て、俺を愛してくれる者。




そして・・・俺自身が愛せる者だけでいい・・・・・・。








約束 〜 2人の出会い 〜
                         (アスランside)








「……見せ…て…も、い…い…?」



一世一代の決心での告白への答を待つアスランに聞こえたのは、そんな言葉。
断りの言葉ではない、…だろう。



そして、自分の言葉への答だというのは分かった。
けれどアスランには、それがどういう意味を持つのかが分からなかった。




だから。



「何を、か、聞いてもいい?」



そう、聞いてみる。
その問いにキラは顔を真っ赤にして、それでもちらちらとこちらを向いて。



「あ、あの…あの、ひ…ひとりだけに、見せてもいいの。
だから…だから…あの…、それ見せても、い…い?」



小さな声で、そう言った。




それに、嬉しくなる。
キラは、自分の言葉に是と答えようとしてくれているのだと。
婚姻の申し込みには、それぞれの種族で大きな違いがある。
キラの種族では、きっとその“なにか”を見せることで成り立つのだろう。



そして同時に、キラが時折見せる揺れの理由にも気がついた。
キラの種族は、恐らくは一夫一婦制。
それも、ただ一人を決めたならば、その相手以外を求めないものなのだろう。



だが、自分はキラとは違う種族で。
アスランの心が離れていく時が来るのではと、思ってしまうのだろう。
確かにアスランは恋愛に関してとてもおおらか(笑)な龍族だけれど、
自分に限ってそれだけはないと言える。


というか、ありえない。



恋愛に興味がない…というか、恋人を多く持つことをよしとしないというのもそうだが、
こんなにも目の前の一人に…キラただ一人に心奪われているのだから。
キラの心の揺れさえ、自分を好きな証であると嬉しくなってしまうのだから。




だから。



「見せて、くれるの?」



そう、言った。




それにはっとしたように顔をあげたキラは、ついでニコリと、
アスランの心臓を鷲づかみにしてくれんばかりの笑顔を向けてくれた。




そして。
まるで祈るかのように手を合わせたキラの背に、光が現れる。



「……これ…は……」



それに、息をのむ。
とても美しい、それ。
光を織り上げたかのようなそれは、彼女の力が凝縮されたものなのだろう。
まるでキラそのものであるかのように、ちらちらと揺れながらも確かなものとして在り、
優しく美しく、七色に変化していく。




その美しさに、アスランは意識を奪われて動けなかった。
でもそれが現実であると、自分がそれを見ているのだと確信したとき、心は歓喜に満たされた。
キラの背に現れた光…否、光を集めたかのようなそれは、羽だった。





それも、この世界でも高位の種族である、鳳凰族のもの。
しかもその美しさから、彼女が鳳凰族でも高位にあることが伺えて。
それに、キラは言った。
見せるのは、一人だけなのだと。
誇り高い鳳凰族であるキラが、一人だけにしか見せない羽を、自分に見せてくれた。
それは彼女の心が、自分にあることの証明なのだから。




それに。
アスランもまた、同じだけのものを返そうとする。
おもむろに右手に力を集め、すっと一条の傷を付ける。
次いで、流れ出す血を力を集めた掌に受けて、重ね合わせる。
凝らせる。



そうしてできたのは、朱く紅く…赤にさらなるあかを重ねてつくりだされた、
三センチほどの真円の…暗赤色の輝きを放つ、玉。



「キラ、私の想いを、受け取ってください」



それを、キラに差し出す。



「これ…は…?」



それを受け取って、でも、キラは不思議な表情をする。


多分、初めて見ただろうから。
キラが生まれたばかりだから…ではなく。



龍族以外では…否、龍族ですら、ここ数百年…数千年の間に見たものがいるかどうかという。
これは、そんなもの。




それは。



「龍血玉だよ」

「龍血玉? 龍玉とか血玉のこと?」



でも、やはりキラは知っていたけれど、知らなかった。



「違う。 龍玉あるいは血玉と呼ばれるのは、その者の力を凝縮させたものだ。
だが、龍血玉は、自身の生命の一部を凝らせたもの」

「いのち…?」



そう。
通常龍が持つと言われる”玉”、それは、その者自身の持つ力を凝らせたもの。



けれど、龍血玉は違う。
それは、その者の命の欠片。
生命そのものを凝らせたもの。


そしてそれは証。
総てを、与えるという。
その者が、己の総てであると…生命を奪うことすらできる者であるという、証。



鳳凰族の…キラの見せてくれた羽と同じ…もしくはそれ以上の意味を持つと言うこと。
それを、キラは正しく受け取り。




一瞬躊躇―分などでいいのかとの―を見せたが。



「……大事に、する」



受け取って、くれた。





だから。
違えられることのない約束を、交わした。



「キラが大人になったら、迎えに行くよ」



と。



本当なら、今すぐ浚っていきたい。
けれど、キラは恐らく自分の意志ではなくここにいる。
たとえそれをキラが望んでいたとしても、
龍族である…しかも長である自分がそれをすれば、種族間の戦争になる。



そうなれば、キラが泣いてしまう。
だから、今は約束だけを交わした。



決して破られることのない約束。
それだけをもって、今は離れる。




キラ、君が13の成人を迎える日。
その日に迎えに行くよ。
君に相応しくなって。





だから、さよならは言わない。



「またね」

「うん」









すべては、その日のために。


















2007/09/12