「自分の立場をよく理解しているつもりだ。 だが・・・それでも、『結婚』は自身で選択してもいいだろう?
『結婚』は生涯を誓う場。 その伴侶を生涯にかけて愛し、守るのだから」



俺が初めて欲した、たった一人の彼女。
彼女以外と婚約も結婚するつもりもない。
確かに、三世代目の出生率低下が問題になっていることも知っている。
そのことで、評議会が新しく婚姻統制を法として、確定させようとしていることも知っている。




・・・だが、それを確定させる段階で無理矢理婚約をさせようとした評議会を許すことは出来ない。
子にそれを要請ではなく、確定事項として伝えてきたのだから、『大人』である彼女がするのは、当然だろう?
「子どもが既にいる」など、いい訳にもならない。
年齢的にも、まだ大丈夫なラインなのだから。
自身が、この確定させようとする制度によっての婚姻ではなく、列記とした恋愛での婚姻ならば、俺を責める言われもないし、資格すらない。








受難物語 〜番外編〜
   ― 奮闘記 ―








式が終わって。
記念写真を撮ることとなった。
二人だけの写真。
それぞれの両親との写真。
両家一緒の写真。 
その時々に、アスランは隣のキラを見て思う。



あの時。
キラが来てくれたから、今がある、と。




そう、あの、時。








突然の通信に、少なからずアスランは驚いていた。



一応ザラ家の嫡子として、社交界への披露目は済んでいたが、アスランは未だ誕生日前。
成人前なのだ。
なのに自分を、と指定してきたのにも驚いたが。


もっと驚いたのは、発信者。
エザリア=ジュールなのだから。



はっきり言って、アスランはエザリアが嫌いだった。
いや、評議会議員を務めているのだから、能力はあるのだろう。

だから、特にどう…とも思ってはいなかった。




…月から帰ってくるまでは。





だが。
彼女は今やアスランにとって、天敵にも等しい存在となっている。






月から帰ったアスランに対して、彼女は要求したのだから。



「あなたとラクス嬢の遺伝子適合率は、92%でした。
ですので、速やかに彼女との婚約を要請します」



と。




婚姻統制の話は、知っていた。
自分の立場も、次世代を望まれていることも知っていた。





だが。
婚姻統制は、まだ法として確立してはいなかったはず。
勿論、幾つかのテストケースはあって、成立している婚約もあると聞くし、
実際子を成している人たちも、いると聞く。



それはそれで、いいと思っている。
本人納得の上でなら、誰も文句はない。




だが、である。 
アスランだっていずれは結婚したいと思っているし、子どもも欲しいと思っている。
それに自分の立場だって、十分すぎるほどに分かっている。



そう、だが、である。
アスランと結婚するのも、アスランの子供を産んでくれるのも。
自分で選ぶ。
というか、既にアスランの中ではその相手は確定事項であり、両親ともに彼女なら…と、
認めてくれているのだ。
彼女以外など、眼中にもない。





なのに、婚約しろ?
会ったこともない―名前と顔くらいはしっているが―相手と、たかだか遺伝子適合率が高いと言うだけで?
それも要請ではなく、確定事項として?



評議会の魂胆としては、婚姻統制法制化の広告塔として使うつもりなのだろう。
それだけのネームバリューは、アスラン・ラクス双方にある。




だが。
冗談では、なかった。




当然、



「お断りします。 私には既に心に決めた女性がいますから」



そう言った。
それでも何かと「コーディネイターの未来のために」とか「その人物との適合率はどうなのですか」とか、
いろいろと言ってきたが、すべて無視した。
―特に、キラとの適合率については、アスランも知らない。
というか、そんなことでキラとのことを決めたくなかったので、調べていなかったりする―



父もキラのことは認めていたから、受けはしなかったし。




なのに、ことあるごとに、押しつけようとしていた。
おかげで、幼年学校を卒業したら迎えに行こうと思っていたのに、その準備さえままならなくなって、
日に日に不機嫌になっていった。





そんな時だった。
意外な人物から、通信が来たのは。



その日は、月から転入した幼年学校の卒業まで、あと少しだと言う時で。
周りにはザラの名に群がる奴らばっかりで。


それに、キラのいない学校なんて面白くもなかったので、さっさと家に帰ってきていた。




そんな時に、執事が通信だと告げた。



「誰だ?」



両親ならばそう言うはずだし、ザラに取り入ろうとする奴らなら、そもそも取り次がない。



月時代の友人たちかとも思ったが、彼らには自分が帰ってきていることを告げていなかったと思い出す。




ならば、一体誰なんだと問えば。



「イザーク=ジュール様です」

「イザーク?」



返ってきた人物の名に、驚いた。
一応、名は知っているし、会ったこともある。



だが、それだけだったはずだ。
親の関係で、月から帰ってきてから紹介されて。
挨拶くらいはしたけれど、本当にそれだけ。

特に彼に興味もなかったし、何より婚姻統制を押しつけようとするエザリア=ジュールの息子かと思うと、
どちらかというと敬遠したいと思った。
どうやら相手も敬遠…とまでは行かなくとも、積極的にお近づきになろうという対象ではなかったようで。


パーティや何やで、会えば挨拶ぐらいはするが、それだけの関係。
わざわざ通信をするような仲ではない。



だから、通信を入れてきたのがイザーク=ジュールと聞いて、驚いたのだ。





それでも。



「こちらに回してくれ」



出ないわけにはいかない。
アスランの父は国防委員長で、イザークの母も評議会議員の一人だから。


ましてや、婚姻統制の件がある。
彼女の関係者である者に、隙を見せるわけにはいかない。



気を引き締め、通信に出る。
どんな話が出ようとも、揺るがぬように。




だが。
画面に現れた姿に、絶句する。
イザークに、ではない。
元々イザークと話すつもりだったのだ。
彼が出たからといって、どうということはない。
というか、イザークなぞ、はっきりいってどうでもいい。





問題は、彼…いや、奴の腕の中にいる人物だ。
アスランの視力は、良い方だ。
たとえ悪かったとしても、彼女だけは見間違うものではない。



間違いない、キラ、だ。



「キ…ラ……?」



でも、今通信で見ていると言うことが信じられなくて、そっと名を呼んでみる。


ああ、キラ、だ。
呼びかけに、まっすぐにアスランの方を向いたその姿に、まっすぐに自分を見てくれる視線に確信する。

間違いない、今、キラはアスランとの通信に出ているんだ、と。



だが、そこではたと思い至る。
キラは、月にいるはずだと。
だが、イザークが月に言ったという話は聞いていない。


なら、キラは、今どこにいる?
そもそも、なんで、イザークなんかの腕の中にいるんだ?
キラを抱きしめてもイイのは、自分だけだ。

早くしなければ、害虫が一匹増えるかもしれない。
そんな想いが、アスランの裡を駆けめぐる。



そして。
キラに―イザークのことは、意図的に、アウトオブ眼中―微笑みかけつつ、場所の特定をする。


まず、イザークがいることから、場所はプラント。
で、エザリア女史のスケジュールを思い出す。

…確か、どこぞへ視察にいっていたと。
では、イザークは出迎えで、ならば、場所は港。
で、評議員としていっていた筈なので、戻るとすれば、ここ、アプリリウス。



ならば、キラは、アプリリウスの宇宙港…にいる。




場所は、オーブ籍をもつキラがプラントに来ているとすれば、



「移民局か…」



そういえば、エザリア女史は移民の担当だったな…。



そこまで考えて、キラの場所を特定して。



「今から行くから」



それだけを言って、通信を切る。





キラが来ているなら、早く行かなくてはならない。
出させたエレカを制限速度ギリギリで走らせて、キラの所へと急ぐ。



そして分かった、とても嬉しい事実♪―姿を認めたときに泣いていたのには、驚いたが―
キラが、キラが、キラが!
俺たちの子どもを宿してくれてたんだ!

しかも、自分から来てくれた!
―後で聞いたところによると、カリダ小母さん…いやいや、義母上が強く進めてくださったとか。感謝しますv―


これを運命といわずして、なんとする。
キラには聞かせないようにしつつ、エザリア女史を脅しつけて♪ しっかりとキラとのことを認めさせてやった♪
―…イザークが妙に肩入れしてくれていたのには、もしやキラに…と、少し警戒したが、
後日理由が判明したから、まぁ、いいだろう。
好意はあるようだが、どうも妹的感覚らしいし…。
何より、キラが認めてるからな。
仕方ない…としておこう―




そして、運命をもぎ取った結果が、アスランの隣で花嫁衣装に身を包むキラv
あああああああv
十二単がよく似合っててv


昔、お母さんのって見せてもらったとき、キラも着たいって思ってるってこと分かったし、
アスラン自身も十二単を着たキラを見たかったから。

「結婚式は、是非十二単を着てv」



そう、言った。 



義母上もそうしたかったみたいだから、応援してくれたし♪
つくるのに時間がかかるのがちょっと難だけど、それもこれも、綺麗なキラを見たいがためv
―ついでに、軍礼装ではちょっと浮くので、俺の分も衣冠にした時には、
ちょっと父上がごねたけど、できあがった衣装を見たら、堕ちたしv―









…写真に写るアスランは、それはそれは素晴らしい微笑みを湛えていたそうです。
はい。


















2007/01/01