「アスランとは、アスラン=ザラ…パトリック=ザラの息子のことか?」



あの時まで、俺はアスランの事をいけ好かないと思っていた。
課題に忠実で、人間味のない・・・感情の伴っていないヤツだと。
尤も、それは俺の見当違いだったみたいだが。
その事を俺に教えたのは、あの少女だった。




確かに、あの時は大変だったが・・・・アレがあって今の俺たちがあるのだから得たものは、大きいだろう。








受難物語
   ― 嵐、到来 ―








「あれ? イザーク、何笑ってんだよ?」

どうやら、知らず知らずに笑っていたらしい。
それを目聡く見つけたのは、ミゲル。

それに、アスランを質問攻めにしていた面々も、珍しいと矛先をイザークに向ける。


普段なら、鬱陶しいと邪険にするも、内容が内容なので…。



「ああ。 ちょっと思い出していたんだ」



答えてみる。



「何を?」



イザークのその珍しい現象に、もしやと乗ったのは、ディアッカで。



「嵐に遭った日のことだ」



それに応えるように、しっかりと、乗ってやった。



「嵐?」



だがそのいつものイザークとはかけ離れた答えに、違ったかな?
と思ったのも束の間。

「…イザーク…」

事の次第を感よく察したアスランの否定のための絶対零度の声に、全員が分かってしまう。
あんまり、話されたいことではないらしいと。

それに、イザークは笑ってしまう。
自分からバラしてどうする…と。



ならば、ご期待に添うべきだろうと。



「あれは、正に嵐だったな」



そう。
あれは、イザークの人生を襲った、最大級の嵐。

総てをぶち壊し…、流し去ってくれた。 
それでも、それは決して失うものばかりでなく、得るものも確かにあった。



「なにせ、そこにいた全員、ぐちゃぐちゃにしてくれたからな」



それは。







通信の後。
来ると言った相手が来るまで(手持ちぶさたであったため、建設的な暇つぶしをすることとした。
何せ、市内のザラ家から宇宙港までは、どんなに飛ばしても二十〜三十分はかかるので)



すなわち。



「で? キラは、あいつとドコで知り合ったんだ?」



離れようとしないキラを取り敢えず腕に抱き込んだままに、
イザークがいろいろと疑問を聞いていく…という形での。



「えと、月でお隣さんにだったの」



それに、結構な情報を手にすることができた。



「月? そう言えば、留学していたと言ったが…、よく知り合えたな」



成る程、隣同士ならば、幼馴染みにもなるな、とか。



「え? だって、母様と小母様、学生時代からのお友達だもの」



親同士が知り合いなら、子どもも仲良くなる確率は高いだろうな、とか。

だが。
壊れかけたものもある。
だがそれは、後のアレを見るに…よかったんだろうと思えるモノだったりした。

それは、アスランという人物に対する評価。



「しかし、あのすました奴が、よく結婚なんぞと口にしたもんだ」



と、これは本気でそう思っていた。
多分、母も、ここにいる移民局の係官も、母のSPもそうだろう。



「え? すました…やつ?」



キラには、違ったようだ。



「ああ。 何でもそつなくこなすくせに、感情を動かすこともなく、大人ぶった態度を取る奴だろう? あいつは?」

「え…? アスは、よく怒るよ?」



ごく一般的な、アスラン=ザラのイメージを語るイザークに、キラは小さな爆弾を落とした。



「いや、それは、怒る位は…」



だがまぁ、不機嫌な表情は確かに見たことがあるなと言ってみれば。



「それに、けっこう細かいし、口うるさいし、笑うよ?」



とってもステキな笑顔なんだよと、更に爆弾を連続投下してくれた。



「は?」



細かい?
口うるさい?
誰が?
それに、笑う?
笑う…と言うからには、よく見かける薄笑いとかではなくて、本当に笑う…というやつか?
あの、アスランが?


………
想像が、できない。
どうやらそれは、この場のキラを除く全員の総意であるようで、皆、妙な表情をしている。



「…アス、笑わない…の?」



それに、何かを感じたのか。
それまでアスランのことを語るときにはもれなくついていた笑顔を少し曇らせて、問いかける。



「あー、見たことは、ない…な」



どう言うべきか少々迷ったが、嘘をついても仕方がないと、真実を述べる。



「友達、いる?」



とはいえ。



「そこまで親しい訳じゃないから、知らんな」



そう言う度に曇る表情に、胸が痛む。
関係ないはずなのに、それでもキラを泣かすのはイヤで…。
笑顔が見たくて。
どうやらそれは全員そうであったようで、何とかアスランが人間らしいと証明したくて。
(そうであると、キラは信じていたようで)



「あ、でもラクス=クラインと婚約してるし…」



うっかりと、係官の一人が口を滑らせた。
婚約者が居るのは人間らしいと言えばらしいし、人間関係も円滑であるとの証明にはなるだろう。
だが。



「え?」



キラは、言った筈だった。
アスランは、自分をお嫁さんにしてくれる人なのだと。

なれば…。



「ばっ」

「……アス、婚約…した…の?」



はっと口を噤むも、時既に遅く。
そう、キラも、アスランを好きだと言うことは、自明の理で。
それに婚約者が居るとなれば…。
何とか収まっていた涙が再びじわりと溢れてきて。



「僕…たち、邪魔…な…の?」



一筋、流れた。
その涙と、ぽろりと零れた一言に、イザークの思考は一瞬凍り付き。
何か、キラの言葉に引っかかるモノもあったのだが、考えるのは後と、兎も角も抱きしめた。

正に、その瞬間。



「キラ!」



シュンという音と共に、どこかで聞いた声がキラを呼んだなと思ったと同時に、
腕にあったぬくもりは消えて、絶対零度の視線に晒されていたりした。
思わず、冷や汗が出る。

正に一瞬の出来事。
その一瞬に、それをやってのけたのは…。



「アスラン…」



だったりした。
だが、イザークからキラを掻っ攫い、しっかりと腕に抱きしめたアスランは、
きっぱりすっぱりとその呼びかけを無視してくれて。



「キラ、キラ? どうしたの? 何で泣いてるの? 誰かに苛められたの?」



と、あの冷たい視線はなんなんだと言うくらいの優しいというか、甘ったるい声で、問いかけていた。
右手は背中をなでつつも、しっかりとキラの腰に左手を回しながら。

ついでに、最後の言葉と共に視線を周囲に巡らせたのだが…。
思わずゾクリとするほどの冷たいモノだった。


だが。
それをモノともせず、声をかける強者が居た。



「アスラン=ザラ」



言わずとしれた、エザリア=ジュールである。
それまで、イザークがキラと何を話そうと、ただ黙ってそれを聞いていた彼女が、
何かを思うかのように、口を開いたのだ。 



「…なにか?」



それに、警戒心も露わに応えるアスラン。
だが。



「貴方は、彼女の身元を保証しますか?」



かけられたのは、移民を担当する者として、彼をここに呼び出した理由として、至極真っ当なもの。



「はい」



それが成されれば、キラのプラントでのIDは発行される。
だが油断はできない。
彼女は、エザリアなのだから。

そして。



「では、評議会の名の下に、キラ=ヤマトのプラントIDを発行いたしましょう」



それは、的中した。



「…それを私たちに要求するなら、まず貴女に実践していただきましょうか」



冷たい、絶対零度の声で、エザリアの意図を汲み取った上で、返事を返す。
(彼女の身分を保障する代わりに、評議会の言うとおりに婚約しろと言う)

…しっかりとキラの耳をさりげなく塞いでいるのが、なんだが。



「どういう、意味ですか?」

「簡単ですよ。子にそれを求めるのなら、親も実践していただくと言うことです。
幸い、貴女は現在ひとりですから」



更に返された答えに、イザークは絶句した。
周囲の係官達は、一体何を言っているのか、分かってはいない。

だが、イザークには分かった。
勿論、エザリアにも分かっただろう。


そう。
アスランは、言ったのだ。
自分に対の遺伝子たる者との婚姻を望むというのなら、
自分もまた同じようにしろと。
自分たちは想いのままに結婚をしておいて、他者に求めるなと。
(驚くことだが、評議会議員のメインメンバーは、殆ど恋愛結婚である。勿論、エザリアもである)
それを求めるのなら、実践をしろと…己の対の遺伝子たる者と婚姻し、子を成してみろと言ったのだ。


それは、あまりにも手痛いしっぺ返しだった。
確かに、彼女は夫を亡くしている。
そして未だ若い彼女だから、相手さえいれば可能だろう。
そう、それは、可能だと言えば可能なのだが…。

彼女は、夫を今でも愛していた。



「それ…は…」



だから、エザリアは、続く言葉を発することはできなかった。



「それでも、とおっしゃるなら、構いませんよ? 私はキラの許へ行くだけですから」



それは、プラントを捨てると言うこと。
キラがドコの出身か(彼女がコーディネイターであることを考えれば、恐らくはオーブあたりか)
は知らないが、これ以上婚姻統制を押しつけるのなら、出て行くと言い切ったのだ。
まぁ、オーブなら、身の危険はないだろうが。


だが。
それは、自分たちのような立場の者が、言ってはならないこと。
婚姻統制には、イザークとて言いたいことは、それこそ山ほどある。


けれど。
そう、けれど。
逃げ出すことは、許されない。

だから。
だから、一言言おうとした。



「アスラン!」



それを遮るように、切羽詰まった声が響く。

それは、最後の所だけ、耳を塞いでいた手を外したがために、アスランの言葉を聞いたキラの発したもの。


それは、イザークが言いたいことをしっかりと含んだ呼びかけだった。
けれど。



「どうしたの?」



当のアスランは、こいつは、二重人格なのか? と言いたくなるほどの豹変ぶりを示して、
それまでの冷たさを払拭して、優しい優しい声でキラに問いかける。



「そんなの、ダメ!」



それに返るのは、否定の言葉。

まぁ。
それはそうだろう。


仮にも評議員の子息が、守るべきプラントを見捨てるというのだから。

けれど。



「どうして?  キラは、俺が婚姻統制に従ってもイイの? キラ、泣かない?
キラを泣かせるつもりは俺にはないし、そんなことしたら、それこそ勘当されるよ?」



心底不思議そうに、ついでににーこっりと笑んで返すのは………。
ドコまでも自分が正しいと主張する言葉。

確かに、一見正当な言い分に聞こえるが…、要は、キラが良ければ総てイイ。
キラが良ければ自分もイイという、どこまでも自己中心的な言い分で。
こーいーつーはー…と、思わず脱力する。

これまで見せてきた(といっても、ここ数ヶ月しか知らないが)
これぞトップの子たる鑑! と評されていた姿は一体何なんだと言いたくもなるが。


だが。



「ところで」



こんな姿は、嫌いじゃあなかったりする。

ついでに、その行動は肯定できないが、想いには(不本意ながら)共感できる。

だから。
こいつらの応援を(不本意ながら)してやろう。


そのためにも、アスランの登場で思考停止に陥る前に気に掛かったことを確認しなくてはならない。



「キラに聞きたいことがあるんだが?」



まずは、きっかけを掴むために、捕まえやすいとっかかかりに手をかける。
本当なら、直接アスランに聞いた方がいいのだろうが、
あいつが素直にこちらの言うことを聞くとは思えない。

ので。
将を射んと欲すればまず馬を射よ(…ちょっと違うかもしれないが)である。



「は、はい?」



根が素直なキラは、イザークの呼びかけに、アスランに向けていた意識を向ける。


途端。
思った通りの冷たい冷たい視線が、イザークに向けられる。
どうやら、アスランはキラ絡みなら、感情が外に出るようだ。
ならば、それを利用させてもらおう。


そう。
もし、イザークが気に掛かったことが事実なら、二人は誰にも邪魔されることなく、一緒に在れるだろう。
ついでに、母に直談判してでも、自分の想いも成就させてやる!
そんな想い(一部下心)を含みつつ、言う。


殆ど、爆弾にも等しい威力を持つ、一言を。
すなわち、



「何ヶ月だ?」



と。

そう、先ほど気に掛かったこと、それは、キラが言った言葉。
「僕たち」という一言。
どう見ても、キラは一人でここに来た。

なのに、彼女の人称は複数。
それも、意図してのことではなく、咄嗟に出た言葉だからこそ、真実だと感じた。


それに、キラが語ったアスランとの関係。
アスランは、キラに「迎えに行く」と言ったという。
ならば、少々のことがあったとしても、キラの性格なら、月で待っているのではないか。
なのに、キラは今ここにいる。


これが驚くべき重大な事態だと言うことは、アスランがキラがここに来ることを知らなかった…
迎えに来ていなかったということからも分かる。
(もし知っていたのなら、絶対に来ている筈だから。ここで知った、アスランなら)


ならば、何故、キラは来たのか?
もし、自分の考えたとおりならば。

そうだとすれば、ぐだぐだといらん問いかけをするよりも、直球で聞いた方が早い。
そう思って、聞いたのだ。


だが。
それは、思った以上の威力を発揮した。
というか…(汗)



「キラ?」



イザークの言葉に反応したキラに、問いかけるよう一言名を呼び、その表情を伺うように見たと思ったら…。



「ホント? …本当なんだv  嬉しいよv キラv
別れた時になんにも言ってなかったってことは、その時には知らなかったんだよね?
で、今は分かってるって事は、多分あの日…かな? なら、今は二ヶ月ちょっと?
三ヶ月に近いのかなv  でも、だったら性別までは分からないよね。
ああ、でも、生まれてくるまで知らないってのも、楽しみが増えて、いいよねぇ♪
ああそうだ、早速父上と母上にも報告しないとねv きっとお二人とも喜ぶよ♪
勿論、俺も嬉しいよ、キラv」



以上を息つく暇もなく、…つか、ノンブレスで言い切ったりして。


それに、思わず呆れてしまう。

いや、それを狙ってはいたのだが、再び思ってしまう。
こいつは、本当にアスラン=ザラか? と。


しかも、である。



「で、でも、アス、婚約…」



と、キラがアスランのほぼ一方的な言い分を、それでも…と、言うのに対し。
(…キラにとってはそうではなさそうだが。ついでに否定しなかったところを見ると、妊娠云々は、事実だろう)



「何言ってるの、キラ。
そんなこと、ドコで誰に聞いたか知らないけど、そんなの、俺は勿論、父上だって母上だって、承知なんかしてないよ?
そんなのは、評議会が子どもが少ないからって、好きでも何でもない相手を無理矢理あてがって、
愛のない結婚をして、子どもをつくれなんて、無理難題を言ってるだけなんだから」



だから、気にしないで…と、キラには優しい微笑みをむけつつ、
周囲にはしっかりと毒を吐いてくださって。
ついでに、だーれがキラに要らないことを吹き込んだのかなー?
と絶対零度の無音の問いかけ(脅しとも言う)を振りまいてくださって。



「で、でも、評議会って、一番偉いんじゃ…」



それでも、と、不安なのだろうキラの言葉に。



「うん、そうだねv だから、大丈夫だよv キラのお腹には、僕らの子どもが居るんだよ?
そんな愛し合う二人を引き裂くような冷たい人は、評議会には居ないから。 ね♪」



脅しをかけてくださって。

それに、最後の言葉は、もしかしなくても、俺に対してか? とイザークは分かり切った答えを求める。


そう、最後の言葉は、紛れもなくイザークへの脅し。
てめぇの母親だろう、しっかりと説得しろ、と。

ついでに。
それに別の色も見つけて。
おーい、と脱力しかける。


そう、それは紛れもなく嫉妬。
なんでだと思いかけて、…そう言えば、アスランが来たときに、キラを抱きしめてたなぁと思って、苦笑する。
あり得ないこと(多分、アスランは、イザークがキラに抱くのが、妹への親愛であることを見抜いている)を知った上で、
それでも嫉妬してしまったのだ。


だが、いいじゃ、ないか。
まぁ、少々狭量かとは思うが、まだ十三歳。
成人ではあっても、まだまだ子どもであっても、と。


だから。
脅された振りをして、くっつけてやろう。
そう気持ちを固めて。



「母上、お聞きの通りです。 …無駄なことは、止めた方がよいですよ」



そう、目の前の光景に固まっている母に、言う。



「で、でも…」



それでも、流石、女の身で評議会議員を務める者。
何とか立ち直り、反論を試みる。

婚姻統制が非情なものであると分かっては居ても、プラントの未来のためには、
どこかで割り切らねばならないと思うから。



だが。

「私は、結婚するのなら、父上と母上のようでありたいと常々思っておりました。
いくら高かろうと、愛情のない結婚は、上手くはいかないでしょう」

それで納得できる者もいるだろうが、見る限り、アスランには(自分にも)無理だ。


それに。



「それに、私は亡き父上以外を、父と呼ぶ気はありませんので」



暗に…いや、はっきりと、この二人を引き裂こうとするのなら、先にアスランが言ったことが実行されますよと言う。
事実として。



そう。
この短い時間でも、分かる。

アスランは、やるといったらやるだろう。それこそ、手段など選ばずに。
しかも、その理由が、キラを泣かせないために。
それだけのために、道理も何もかもを踏みにじって憚らない。


そういう、人間だと。
それを、未だ若年のイザークにも察し得たのだ。

より聡く、経験を積んでいるエザリアが分からないはずもなく。
とうとう、折れた。



「…キラ=ヤマトのIDを発行しなさい」



何も言わず、ただ係官に、仕事を促す。


それに、アスランはにっこりと冷たい笑みをうかべながら、



「ありがとうございます」



と礼を述べた。


勿論、キラに見えないように。
そして。



「じゃ、キラ、いこうかv」



発行されたIDを受け取ったアスランはその一言だけを残し、まるで何事もなかったかのように、その場を去っていった。
当然、キラを伴って。
それに、いいの? というような表情はしたが、アスランが離れることを由とするはずもなく…。







「一緒に帰って行ったな」



ザラ邸へ。



話しの終わりをそう締めくくったイザークだったが、



「で、それからどうなったんですか?」



当然、それで終わりじゃないんですよね? と、尋ねるのはニコルで。


彼の…彼らの聞きたいこと(何故、イザークが今もアスランと関わっているのか)を察したイザークは、
やはり気になるか…と、苦笑しつつも暴露してやった。



「まぁ、普通なら、それで終わりだが、あの後、礼だと言って、わざわざ尋ねてきてくれてな」



お世話になったのだから当然だと、こんなものですいませんと手作りの菓子と花を持って来て、深々と頭を下げていた。



「当然、アスランもくっついては来ていたが、その表情は見物だったな」 



あのアスランは、本当に見物だった。
何せ、キラが自分たちに礼を言い、笑う度に仏頂面が隠せなくなってくるのだから。
本当なら、それも暴露しても良いのだが、流石にそれは不味かろう。
キラ絡みでは、確かに表情は崩れるが…やりすぎると後が怖い。



表情が崩れる…感情が表れると言うことは、沸点もそれにつれて低くなると言うことで…。
そろそろ、止めておくか。

そう思った瞬間。



「…で? お前は何時なんだ?」



………遅かった。



「アスラン?」



突然の話題の転換に、しっかりと好奇心の塊となった奴らが食い付くのは当たり前で…。



「ラクスとはそういう話しは、しないのか?」



小さくにやりと嗤うアスランを、思わず殴りつけたくなったとしても、仕方ないだろう。
自分で煽ったつけが、ここに来るとは。
ちらりと見れば、新たに与えられた好奇心という名の餌に目を輝かせるネコどもが五匹……。
……………
しょうがないか。
ラクスとのことは、隠すことでもないし。
そういう話しも出ていることだし。
自ら餌になってやろう。





自己犠牲充分のイザークの与えた餌に食い付くネコたちと共に、夜は更けていった。


















2006/10/31