「くそっ! また負けたッ!!」
・・・・ヤツは、アイツがいると、豹変する。
これでもかというくらいに。
だが、それでいいかと思う今日この頃。
しかし、その豹変する表情をあいつの前だけでなく日常的にも出させようと、
密に闘志を燃やしていたりもする。
・・・最近、バカらしくなってきてはいるが。
だが、途中放棄など・・・この俺は認めん!
受難物語
― 爆弾投下 ―
全く…と、思う。
あいつが側にいないだけで、何でこいつはこんなになるんだと。
いや。
わかっては、いる。
三年前の“アレ”を見たのだから。
わかっては、いる。
…いるのだが、やはり思ってしまう。
いい加減、そのくそねじ曲がった性格を改めろ、と。
自分では難しいかもしれない。
だが、何事もやらずに諦めるのは、信条に反する。
だから。
今日もまたこいつの張り巡らされた壁を壊そうと、俺は声を張り上げる。
ここは、ヴェサリウスの食堂。
いるのは、今期配属となった紅服五人。MSパイロットである、トップガン達である。
そして今は、休憩時間。
本来ならば、日々の訓練で疲れた心身を休め、
次の任務への鋭気を養うべき貴重な安らぎの時間…なの…だ……が…。
「…また、ですね」
「また、だな」
「よくあきないよなぁ〜」
とは、右からニコル、ディアッカ、ラスティの言である。
本当はもう二人いるのだが、彼らががそろっているのを見た瞬間に回れ右して自室に逃げている。
で、彼らの目の前では、アカデミー時代から見慣れた、
最早何度目なのかも数えるのもばからしい光景が見られている。
すなわち、イザークがアスランに突っかかり、勝負を挑むという。
どうやら今回は、チェスらしいのだが。
結果は、また同じ。
すなわち、アスランの勝利となり。
切れたイザークは、喚きながらも外へと行く。
そんな、いつもの光景。
だが、いつもと違う光景が一つ。
「しっかし、なんであーまで固執するかねぇ?」
いくら相手をライバル視しており、尚かつ本人が負けず嫌いであっても、ちょっとおかしい。
今更ながらに、そんな疑問を抱いたのは、取り敢えずイザークを幼い頃から知っているディアッカで。
「あなたが知らないっていうんなら、僕が知るはずないでしょう?」
幼馴染みのくせに、知らないんですか? とちょっぴし毒を含んだ答えを返すのはニコル。
それに肩をすくめてアスランの方を見る。
本当に、何でだろう…と。
確かに、あの幼馴染み殿は負けず嫌いでプライドが高くて態度も俺様だけど…。
ついでに自分を無視されることが大嫌いだけど。
ある程度の見極めをしたら、さっさと切り捨ててきた。
…勝ち負けにこだわらず。
勿論、その後の努力は怠らないが。
なのに、負け続けているにもかかわらず、ついでにあっさりといなされているにもかかわらず、
いつまでもアスランにこだわっている。
これは、イザークの性格上、ちょっと変だ。
…というか、それ以上に、アスランがイザークの相手をしていること自体にも驚いている。
アカデミーで“氷の貴公子”の異名を持つアスランは、基本的に他人と関わろうとしない。
勿論、必要と認めた相手とは関わるし、自分たちともそれなりにつきあっていると思う。
だが。
必要以外のことに関しては、きっぱりすっぱり無視してくれるのだ。
ついでに、感情なんぞ動きもしない。
以前からの親を通じての数少ないつきあいと、それこそアカデミーでの数日間でそれは証明された。
だから。
アカデミーで最初の試験の順位が発表されたときに、イザークがアスランに突っかかっていったときも、
イザークの性格を考えれば当然と思ったし、アスランの性格上、無視すると思われた。
だが。
アスランは誰がどんな風に話しかけても無視しきっていたのに、
「うるさいな」
と、返事をしたのだ。
しかも、
「うるさいとは何事だ!」
とイザークが返せば、表情は変えないながらも、
「うるさいからうるさいと言っただけだ。 それに、文句があるなら勝てばいいだけの話しだろう」
と、会話さえしたのだ。
これには、周囲も驚いた。
それ以来、イザークが突っかかって勝負を挑み、負けるという図式が成り立っていた。
で、今回もそうだったのだが。
(ま、聞いても何でかなんて答えやしないんだろーなー)
一つ溜息をついて、ディアッカは思考を放棄した。
それが、嵐の前の静けさとも知らず。
虫の知らせというやつだとも気づかずに。
その頃、彼らの関心の的であったイザークは、今回も失敗してしまったとの苛立つ心を鎮めるために、
ずんずんと歩いていた。
そう。
別にイザークは皆が思うように、負けて苛立っているわけではない。
(いや、それが全く皆無というわけではないが)
ただ、あの仮面を剥がすことができなかったこと、それが悔しくて、苛立っているのだ。
それでもあいつが自分の相手をするのは、
自分がとあるアスランにとって大切な人物に友人と認識されているからに他ならない。
それすらもが、苛立たしい。
その苛立ちのまま、ずんずんと歩いていった。
そしてふと気づくと、入り口近くの通路にいた。
何も考えず、足の向くまま歩いていたら、来てしまったらしい。
苦笑して戻ろうとした時。
「キラ…」
視界の隅に見えたモノ…いや者か…に、思わず叫んでしまう。
なんで、いるのだ、と。
今正に考えていた人物の出現に、イザークは軽く混乱した。
「お前、…」
そんなイザークの葛藤も知らず(というか、見せていないが)入り口にいた兵士が問いかける。
「お知り合いですか?」
「ああ」
それに当たり障りのない返事を返しつつ、イザークの頭の中はフル回転している。
まさか、まさかとは思うが、こいつキラに触れてなぞいないだろうな、と。
その場合のアスランへの対処法とか、周囲への被害の食い止め方等々をシュミレーションしつつ。
だが。
「あ、それでは、お願いしても、宜しいでしょうか?」
返されたのは、のほほんとした言葉。
「何を、だ?」
ので、思わず出るのは、間の抜けた言葉。
が。
「あ、こちらの方、ザラ委員長の伝言を持ってこられたんですが、私、ここを離れることができなくて…」
すいませんが、お願いできますでしょうか?
その言葉に、回転の決して遅くはない…否、どちらかと言えば早い頭脳が、一つの答えに辿り着く。
離れられない…と言うことは、一人では行かせられない所。
要所か、立場か。
…自分に頼むということは、後者。
で、紅の自分にそれでも頼むと言うことは、隊長…か。
…伝言。
しかも、キラ…が直接。
それも、ザラ委員長の使い。
で、今は…。
そういえば、アレがもうすぐではなかったか?
もしかして、アレ、か?
そう思い、
「…わざわざ、か?」
送れば済むことだろう、そう問いかけると。
「あ、だって、…」
顔を真っ赤にしたキラがいた。
それを見て、まぁキラだからな…と、納得して、やはりアレか、と思う。
ならば、キラの性格上、自分で来るのも納得だと思う。
それでは、さっさと隊長の所へ行くか…と思って。
「あ…全員か?」
ふと思いついたことを聞く。
「ええ。 やっぱり同じ隊の方には…」
それに返されたのは、納得の一言。
ならば、どうせ呼び出されるのだ。隊長室へ行く前に、声をかけるべきだろうか…。
そこまで考えて。
そういえば、一人キラの用事に関係ない(わけではないが)奴がいたと思い至り。
「ふん。 で、あいつには?」
後か? 先か?
ちょっと意地悪げに問う。
それに。
「え…えと、せ、説明…」
真っ赤になってしどろもどろになるのも可愛いと思ってしまう。
ので、ついつい意地悪を言ってしまう。
「言ってると思うか?」
「う…やっぱ…り…?」
「相変わらずだ」
それだけで通じるのは、やはりというか。
それでも、未だに顔は真っ赤にしつつ、
「えと、い、一緒…に……」
先にすれば用事が終わらず、後にすれば絶対に怖いことになるとわかっているので。
ついでに説明も…と、ちょっと甘いことを考えて、キラはそう言った。
「ま、それが妥当だな」
イザークもアスランの性格をー知りたくもなかったのだがー知っていたので、是と答える。
ま、ついでに今までの鬱憤を晴らすためにも、あいつで遊ばせてもらおうと考えていたりしたのは、内緒。
側にいないならともかくも、キラが側にいる限り奴がキラの笑顔を曇らせることなぞ、ありえないのだから。
ま、その後が、ちょっと…だが。
後のことは後のこと…と、きっぱり割り切って、
「行くぞ」
爆弾を持って、嵐のど真ん中へと歩き出した。
その途中。
「あれ、イザーク?」
恐らくは自分を探しに来たであろうディアッカに、
「ああ、皆に隊長の部屋に来るように伝えてくれ」
との時限爆弾を落としながら。
「まぁったく、何だってんだよ?」
俺、寝てたんだぜぇ? と、無理矢理たたき起こされ、寝たりねぇーと愚痴を言うのはミゲルで。
「ま、そう言うなよ。 あいつがそう言うんなら、それなりだろうしさ」
と、イザークをさりげなくかばうのは、ディアッカで。
後の面々は、心中はどうあれ、黙っていた。
ただ、彼らに共通していたのは、
「面倒なことは、さっさと終わらせよう」
であったのは、ご愛敬。
とはいえ、彼らの来たのは隊長室。
何で呼ばれたかは知らないが、呼んだのは隊長(らしい)。
ここで文句を言えば、あの隊長のことである。
何を命じられるか、わかったものではない。
ので。
取り敢えず年長のミゲルが代表して来室を告げて、入って。
「…………」
全員、絶句した。
そこにいたのは、一人の少女。
いや、当たり前の事ながら隊長と、ついでにイザークもいたのだが、彼らの目には映らなかった。
映っていたのは、ただ一人の姿。
さらさらの、腰まであるキューティクルヘアな綺麗な綺麗な栗色の髪。
綺麗…というよりも、可愛いと評した方がしっくり来るその顔。各パーツも、可愛く配列されている。
そして何よりも。
きらきらと輝く、深い紫の瞳。
その瞳に、囚われる。
そして思ったのは、
「か、可愛い…」
だった。
そして、
「お近づきになりたい…」
だった。
他にも、スタイルいいーとか、名前はなんて言うんでしょう?
とか、うわっ肌キレーとか、色々、いろいろ、それこそイロイロと思ったのは…取り敢えず心の中で。
ま…ぁ、それが彼らの命を救ったのだったが。それは後でわかること。
今は、彼らはひたすらに固まっていた。
だが、それも一瞬。
彼らは、腐ってもエリート。
本来の目的ー隊長室に…すなわち隊長に呼ばれたのだということーを一瞬で思い出し、
威儀を正して問いかけようとした、その瞬間。
目の前に起こった事態に、再び絶句した。
今度は、先よりも深く、深く。
それこそ、叫びすら放てないほどに。
なぜならば。
“氷の貴公子”との呼び声も高い、あの、アスラン=ザラが。
何時の間に動いたのか、と思わせる動きで移動したアスランが。
満面の笑顔で。(これだけでも、固まってしまう)
彼らがみとれていた少女に。
しっかりと、抱きついているのだから。
しかも。
しかも、である。
それだけなら、固まるだけで済んだだろう。
が。
抱きつかれている当の少女も、決して嫌がってなどいない…というよりも、
こちらも輝くような笑顔を見せて、応えているのだ。
そして、振りまかれる…何というか雰囲気が、甘いような?
その、あまりの衝撃に。
彼らは一歩も動けず。
一言すら、発せられなかった。
もしそのまま誰も動かなければ、そのまま時間は過ぎていっただろう。
だが、時間は動いた。
凍り付いた時間をを打ち破ったのは、動かしたのは、聞き慣れた声。
…いや、その声が、さらなる嵐を呼んだのだが…。
「いい加減にしておけ」
ぎぎぎっとそちらを向けば、
「イ…ザーク…?」
だった。
そして、それにまた驚愕する。
この目の前の異常事態を、まるで何事もなかったかのようにスルーしてくださったことにもだが…。
ライバル視しているはずのアスランに対して、いつもの癇癪声ではなく。
呆れたように、それでも穏やかに話しかけるイザークに対して。
だがしかし。
当の二人は、まるで彼らの驚愕などに気づかないかのように自分たちだけで事態を進めていった。
(実際、まるで気づいていないのだが)
「うるさい」
何となく甘えている…という色を滲ませて、美少女に抱きつきながら返すアスランに。
「…用件を済まさないと、時間がなくなるぞ」
これまた意味不明の答えを返すイザーク。
だが。
「………渡すのは、隊長にだけなら…」
それもアスランには通じていたようで、渋々と言った態で妥協案を口にする。
「説明はしておいてやろうか?」
それに、ここまでだろうと見切りをつけ、イザークが言う。
そして。
「キラ」
それまで一言も発せずにアスランに抱きつかれていた少女に向かい、声をかける。
恐らく、キラというのが名前なんだろう。
皆はそう思った。
ついでに。
何で、イザークがあの美少女の名前を知ってるんですか? とか。
何で、あのアスラン見て驚かないんだ? とか。
何であんたが仕切るの? とか。
あんた、ホントにイザークか? とか。
渡すって、何を?
などなどなど。
その他様々な疑問も持ったのだが。
「はい?」
「一応紹介しておく。 右端にいる紅服を着ているオレンジ頭から、ラスティ、ディアッカ、ニコル。
で、緑服がミゲル、オロール、マシューだ」
そんな彼らの思惑など完璧に無視(というか察しもせずに)話しをさくさく進めていく。
「まぁ」
そして、彼の美少女もまた。
「何時もアスランがお世話になっております。 是非いらしてくださいね」
ぺこりとお辞儀して。(アスランに拘束されつつなので、しにくそうだったが)
にーっこりと微笑んで下さった。
いえ、お世話って、貴女が何でそんなこと言うんです?
ついでに、行くって、ドコへですか?
その笑顔にまたまた固まって、それでも増えた疑問が頭を過ぎる。
もう少し時間があれば、声に出して問い質していただろう。
「そう言うことなので、アスランはもう良いでしょう」
これで話しは終わりとばかり、返事も待たずにイザークがまた話を進めていく。
だが。
「そうだな。 では、アスラン。 キラ嬢の相手をな」
「わかりました」
隊長はそれが当たり前とばかりに諾とし、キラと呼ばれた美少女から何かを受け取ると、
原因の一つをさっさと部屋から追い出そうとした。
しかも、その原因ー勿論、アスランであるー、許可を得ると同時に、
語尾にハートマークなんぞつけつつ、さっさと退出していったのだ。
その間、約十秒。
ちょっと待て…と、引き留める隙ーも何も、動けなかったのだがーも見せずに、
彼らはその場から綺麗に消え去った。
そして残されたのは、最初から最後まで固まっていて、幾つもの疑問だけが残された紅服三人と緑服二人。
彼らはあまりに驚きすぎて、一体何をどうすればいいのかすら、分からなかった。
もしもそのまま何事もなければ、延々彼らはそのまま固まっていただろう。
だが。
「ほれ」
固まったままの彼らに、イザークが笑いながら何かを手渡した。
反射的に受け取ってはみたものの、彼らにそれが何であるかの認識はない。
ついでに。
「全員出席と言うことで、良いですかね」
「ではないのかね?」
「では、そう伝えておきましょう」
「頼む」
再び訳の分からない会話を再開されて。
驚きの限界を突破した彼らの疑問の奔流が、流れ出た。
それは、取り敢えず年長の意地を見せたミゲルの、
「どういうことだー!」
の、一言に凝縮されて。
だが、イザークはここでもいつものイザークではなかった。
「まず見ろ」
何を?
と言いかけて、渡されたモノだと気づく。
訳が分からないなりに、兎も角も無理矢理に視線を動かして…。
また絶句した。
「………」
ついでに、思考も放棄したくなった。
が、腐ってもザフトのトップガン集団。頭脳もそれなりに優秀で。
手の中のモノが招待状…それも、結婚式の招待状と俗に言われるモノであるというのが分かってしまった。
で、これまでの隊長室でのやりとりをリプレイすれば、自ずと答えは出るわけで…。
それでも。
それでも!
心の平安のためにも、分かりたくないことと言うモノはあるもので。
全員が、示し合わせたわけでもないのに、黙りこんでしまう。
だが。
「イザーク」
もしかしたら、このまま回れ右していつもの生活に戻ったら、今までのことも夢と片付けられたのかもしれない。
見ざる言わざる聞かざるをしていれば、心の平安も、保てたのかもしれない。
だが。
そう、だが、である。
彼らは、全員十代の若者でもある。
“好奇心は、ネコをも殺す”
この言葉を知ってはいても、意味までは知らず。
ついでにむくむくと頭をもたげる好奇心を殺す術も、彼らは持たず。
だから。
彼らの中で一番立ち直りの早かったニコルが、代表して問いかけて。
「これ、招待状に見えるんですけど?」
全員がそれをうんうんと頷いて。
扉を、開けた。
それにイザークは小さく、それでもしっかりとお前等もか…と溜息を吐き。
それでも、答える。
彼の心境は、毒喰らわば皿まで。
あるいは、一蓮托生といったところだろうか。
いい加減、一人であいつの相手をするのにも堪忍袋の緒を切らしかけてきたところだ。
こいつらが毒を喰うというのなら、しっかり喰ってもらおうじゃないか。
そう、考えて。
だから。
「そうだな」
わざと、好奇心をつつくように淡々と言う。
それに、
「…誰の、か、聞いてもいいですか?」
少しの逡巡の後に……、墜ちた。
そこで何も言わない、出て行かない時点で全員同じと言うことで。
イザークはにやりと嗤う。
これで、少しはラクになるかな…と。
当然、総てを知っており、尚かついい性格をしてらっしゃる隊長は、ここまでノーコメント。
見るモノは見つつも、毒は喰わないと言う主義のこの御方。
狸である。
その狸殿が何もしてくれなくて、総てはイザークが被っていた。
ま、それもここでお終い。
これからは、こいつらも一緒だ。
「当事者には、要らんだろうな」
それでもここでしっかりと捕まえるために、好奇心をこれでもかと煽ってみる。
「………アスランですか」
そう言われて分からないほど、あるいは分からないふりをするほど、頭の回転は鈍くない。
ついでに、毒の皿が差し出されているのを感じつつ、
しっかりと受け取ってしまうのは…やはり類は友を呼ぶのだろうか?
それをしっかりと確認して。
「で、相手はあの方ですか」
何となく諦めたように言うニコルに笑ってやる。
「そうだ」
ここまでくれば、後は簡単。
そろそろと復活した面々も、話しに加わってくる。
「キラちゃんって、言うんだよな。 でも、そんな子、聞いたことねーぞ。
それに。 確か、アスランには、対の遺伝子ってのがいただろ? それはどうしたんだ?」
それらの疑問に、最大級の爆弾を落として、答えてやろう。
自分だって驚いたのだ。
こいつ等にもそれなりに驚いてもらおう。
そんな少し意地悪な気持ちで、真実をーほんの少し、隠してー言う。
「ああ。 キラは移民だからな。知らなくても仕方ないし、外にはあまりでないから、
知らなくても不思議はないな。
それに、ラクス嬢のことなら、確かに奴はラクス嬢と対ではあるが、キラとの結婚は評議会も認めているぞ」
「…てことは、あのキラちゃんも対の遺伝子なわけ?」
えー、二人もいるのかよー。羨ましいぜ…とのたまうディアッカに、
「いや、それは知らんが?」
「知らんって」
またまた絶句する。
少子化が進むプラントでは、結婚=子供をつくると言う図式がある。
つまり、結婚相手は、子どもができやすい相手とするモノ…という法がある。
そのため、成人する十三歳になると遺伝子登録をして、全プラントから相性のいい相手を探すのだ。
その中でも、九十%以上の高い値を示した相手は“対の遺伝子”といい、問答無用で婚約することとなる。
アスランの場合、九十二%という高い値を、ラクスとの間に弾き出したのだ。
つまり、それ以上の値を示す相手が居ない限り、二人は結婚するのが当然なのだ。
まぁ、勿論、コーディネーターがプラントにしか居ないというわけではなく、
少ないながらも他国からの移民もある。
中には、その中から相手が選ばれる場合もある。
だから同年代らしいキラのことを知らなかったことで、そのパターンかとも思ったのだ。
イザークも移民だと言っていたし。
が。
それを、絶対とも言える遺伝子の相性値を、対かどうかを知らないという。
だから。
「それで、よく評議会が認めたな」
どんな裏技使ったんだ? と、呆れたように言うディアッカに、
「子どもが居るんだから、いいんじゃないか?」
直撃爆弾を、一つ投下。
「へ?」
「それも、二人とも自然妊娠となれば、認めざるを得んだろうなぁ」
すぐさま、爆弾、もひとつ投下。
「はい?」
「へ?」
「え?」
その爆弾の威力は、凄まじかった。
何せ、いったんは復活していた面々を、再び撃沈したのだから。
だが。
「こど…も?」
「ああ。 二人いるな」
女の子と男の子だ。可愛いぞ…とおまけの爆弾を付け加える。
「二人…?」
「えと、自然妊娠って…」
信じられない言葉の羅列に、最早限界。
…………
カウントダウン開始。
三
二
一
プチン
「ええーーい! 詳しく説明しろー!」
「いったい何だってイザークはそんなこと知ってるんですか!」
「ええい! きりきりはけぇぇ!」
頭の中は飽和状態。
正しい情報を求めて、彼らは何時の間にやら大声で叫んでいた。
「知ってるのは、見たからだな」
それにも、しれっと返すイザーク。
それに限界突破した面々は、説明しろと詰め寄る。
が。
「それは、アスランに聞け」
そこまではごめんだと放り投げる。
「でも、アスランが喋る訳が…」
それでもあの無口なアスランの口を割らせるのは至難の業ではないかと言えば。
「ああ、キラに関してなら喋るぞ」
大丈夫だと、請け負ってやる。
「それって」
先ほどのアスランの様子を思い出して、かもしれないと思うニコルは、強かった。
「まぁ、同席はしてやる」
それは、自分たちでやってみろとのこと。
それでも、口を割らせる援助はしてやろうと。
それに、暫し考える。
どうやら、イザークはこれ以上は口を割らないつもりらしい。
隊長は総てを知っているだろうが、その口を割らせるのは、隊長の性格上アスランよりも難しいだろう。
このまま知らないままで居るというのは、最早彼らには耐えられない。
ならば。
目と目を見交わし、意志を確認し合う。
そうとなれば、話しは早い。
「じゃ、何時にする?」
今すぐにでも行こうという意欲満々の面々に、
「ああ、仕事の後にしておけ」
今行くと、馬に蹴られるぞ。
そう、忠告する。
それに、キラを浚うように出て行ったアスランの態度を思い出し。
それに。
「せっかくの二人きりなんだ。 恨まれていいなら、行ってこい」
ついでのようにかけられた言葉に、これは、邪魔をすれば自分の身にいかなる事が起こるか、怖くなる。
そのため、仕事の後に締め上げることに決定する。
そんな彼らに、
「で、出席でいいんだな?」
今更ながらの確認を取る。
それに。
「勿論ですよ。 こーんなおもしろそうな事態、見逃すわけにはいきません。
当然、最後まで見させていただきますよ」
と、ニコルが言えば。
「だよな♪」
「そうそう」
と、他の面々も是の返事をして。
「わかった」
じゃあ、キラにそう伝えておこう。
帰る前に。
そう言って、イザークは用は済んだと隊長室から退室していった。
残りの面々も、後は夜のお楽しみ、とばかりに、取り敢えずは残りの休憩時間を過ごすために、
それぞれに散っていく。
そして。
「ふむ。 おもしろくなりそうだな」
残った部屋の主の聞く者なき言葉のみが、部屋の中に響いていた。
2006/10/03
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