光と闇のレジェンド・外伝
         ― 夢想花 ―








連日連夜見る、同じ光景。
いつものように、
目の前には紺瑠璃色の髪と翠を切り取ったような美しいエメラルドの瞳を持つ少年が立っていた。


いつもと変わらない光景だが、キラにとってはそれが何よりも大切な時間であった。
目の前にいる少年の顔を確認したキラは、
嬉しげにニッコリと微笑を浮かべていたが、ふと2人の視線が外れた瞬間、
キラの表情は一転して悲しみに満ちた苦痛の表情を浮かべていた。



「                       」



キラの表情に驚いた少年は、エメラルドの瞳を揺らしながらキラに何かを伝えようと口を開いた。
だが、彼の口から音は紡がれる事なく辺りは依然として静寂が支配していた。


少年は自身の口から音が紡がれない事と
目の前にいる少女の表情が一向に晴れない事にもどかしさを覚えたのか、
一度だけキラに向けて伸ばされたしなやかな手が再び、キラの肩へ伸ばされた。



だが、以前の強い拒絶を思い出したのか、残り僅か1cmというところでピタリと少年の動きが止まった。
そんな少年の仕草を静かに見つめていたキラだったが、彼の止まった手により一層悲しみを覚えたのか、
彼女のアメジストの瞳からはポロポロと涙の雫が零れだしていた。




そんなキラの様子に驚いたのは、彼女に手を伸ばしかけていた少年であった。
少年は何かを決意したような表情で未だ涙を静かに流すキラの華奢な肩に、両手を触れさせた・・・・・・。




『輪廻の輪が、今再び・・・・』




静寂の支配する中、突如2人の頭に直接響いた。



少年の姿が見えるようになった時に聞こえた『声』が、再び響いた。


『声』と共に、眩い純白の光が2人を中心にして辺り一面を包み込んだ・・・・・・。





2人を包み込んでいた光が徐々にその眩しさを弱め、再び音のない世界に戻った。
完全に静寂へと戻ったことを聴覚で確認したキラは、
ゆっくりと閉じていた瞼を開き、目の前にいるはずの少年の顔を見ようと顔を上げようとした。


そんなキラだったが、ふと自分の両肩に感じた違和感に、
内心で首を傾げながらも確かめるようにゆっくりとした動作で自らの肩を確認した。

そんなキラの見つめる先には自分とは違う、
大きな手がまるで自分の肩を包むかのようにしっかりと触れていることに気付き、
その手の持ち主が誰であるかなど考えるまでもない。



肩から視線を外したキラは、目の前にいる少年の顔を見たい一身で、自分よりも少し高い位置を見つめた。

キラの見つめる先にいた少年は、キラの両肩に両手を置きながらもどこか呆然とした表情を浮かべていた。
だが、漸く目の前に起きた事を理解し始めたのか、
その表情は一変して歓喜に溢れる表情でキラに向かってニッコリと優しい笑みを浮かべた。



少年の微笑みに意識の奪われていたキラだったが、
突如自分を抱き締める強い腕の力に意識を覚醒させた。


ギュッと自分が苦しくないように配慮されているにも拘らず、
まるで離したりはしないという明確な意思を伝えるかのような抱擁。
その抱擁に驚いたキラだったが、自身を抱き締める腕の強さと少年の温もりに、
安心した表情を浮かべたキラは、少年に甘えるかのように自ら少年の逞しい胸に頬を摺り寄せた・・・・・・。







菖蒲園での騒動から数日が経過した。
学院内ではいつもの日常と変わりなく時が流れていたが、
一人の女子生徒を取り巻く視線は数日前までと違っていた。



その女子生徒とは、今回の騒動の首謀者であるカガリ=ユラ=アスハであった。

彼女の行った行為は噂となって女子部のみならず男子部、果てには大学部にも広まった。

そんな噂を肯定したのは、学院側からのカガリ宛の通知が、警告掲示板に掲載されていたからである。
その掲載内容とは、これまでの目に余る言動と今回の暴動を含んで退学処分と記載されていた。



だが、処分が言い渡されたにも拘らずカガリはいつものように平然として学院の敷地に入った。
そのことに驚きを隠せない生徒たちだったが、
心痛な表情を浮かべながらカガリを見つめるシスターたちの姿を目撃した生徒たちは、
大方の状況を把握した。




幼等部から一貫のエスカレーター式である聖母学院は、腐れ縁のような形で進学する。
そのため、現在高等部に在籍する生徒と中等部・大学部に在籍する一部の生徒たちの間では、
カガリは悪い意味で有名であった。
3代で企業のトップグループに上り詰めたアスハの次期総裁であるカガリは、
そのことを何かと鼻にかけていた。
また、自らを「選ばれた存在」と豪語し、教師であるシスターに礼儀を払うことは一切なかった。
神聖な場であるはずの礼拝堂での態度も悪く、
幾度となく職員室に呼び出されていたことを生徒たちは知っていた。
また、現総裁でありカガリの父であるウズミは一人娘で自らの後継者であるカガリを溺愛している。
愛娘の犯した数々の事件を、大金で闇に葬ってきた数は計り知れない。



そんなアスハ家を知っている生徒たちは、今回の処分取り消しも家の力を使用したのだと悟った。
それと同時に、
今まで彼女の使用する家の力の恐怖で押さえていた不満と不快感が一気に爆発したのだった。
彼女と同じ・・・いや、それ以上で企業トップの令嬢であるキラと分家に当たるミリアリアとフレイたちは、
カガリとは違い一般の生徒たちと同じ金銭感覚の持ち主である。
また、自ら起こす行動も自身が責任を負える範囲に自ら制限していた。
そして、分け隔てなく平等に接する3人に生徒たちが信頼してゆくのは自然の流れであろう。
カガリとアスハ家の行ったことは、生徒たちだけでなくその保護者たちにまで広がりを見せた。
元々株価の価値が他の企業よりも下回っていたにも拘らず、その株価はますます落ち、暴落した。


また、カガリは知らないが同じ学院に通う生徒の中に、
中小企業の会社を運営する社長の娘が通っていた。
その社長とは、アスハが提携する一族が運営している会社の取引先であったが、
娘からの話を聞いた社長はアスハ一族から手を引いた。
そのようなことが他にもいくつかあり、ほとんどの企業がアスハ一族から手を引いたことになる。
もちろん、その切欠となった無知なカガリはその事実を知る由はなかった・・・・・・。










――――― 運命の歯車はゆっくりと回り始めた。
再び、欠けた欠片が交じり合うのを示唆するかのように・・・・・・。











END.


















漸く、最終回ですv
アスランsideももう少しで終われそうなので・・・、本編の方を進めることができますv
一応、本編に続くように書いているつもりですが;
不明な点がありましたら、拍手の方でお知らせくださいv
【光闇】のキラは、種本編よりも儚さが表に出てますv





2008/02/06