「君を、この腕に抱きたい。 哀しみの宿るその瞳を、俺は癒したい・・・・・・」
多くて週に2回。
それが、いつの日かほとんど毎日・・・同じ“夢”を見るようになった。
君の姿が見えない頃は、一目でいいから君の姿を見てみたいと・・・そう、切望していた。
だが、一度君の姿を見ると俺の中にあった欲求がどんどん大きくなるのを・・・止めることができない。
君の、華奢な身体をこの腕に強く抱き締めたい。
君の全てを・・・、包み込みたいんだ。
―――― その為に、今出来ることをしよう。 君に、相応しい者になる努力を・・・・・・。
光と闇のレジェンド・外伝
― 初恋草 ―
国花である菖蒲が、国中の到る所に咲き乱れている。
菖蒲が国花となったのは、
初代皇帝が皇后となった光の精霊の加護を受ける乙女にプロポーズする際に渡した、
と伝えられているからであった。
また、皇族の婚姻の際には菖蒲の花がモチーフとなった刻印が指輪に施されている。
季節が変わってもアスランの見る夢は変わることなく、依然少女の姿が見えるだけであった。
「兄様? どこへ行かれるのですか?」
自室の窓から中庭の庭園に咲き乱れる菖蒲を眺めていたアスランは、
目的地に向かう為に自室から回廊に出た。
ちょうど、廊下には護衛としての任があるため、
自室が隣の部屋となっているレイが不思議そうにアスランを見つめた。
「レイか。 図書室に向かうところだ。 ・・・少し調べものをな」
「俺も一緒に行きます。 調べものならば、お手伝いしますよ。
1人より、2人の方が見つかる確立が上がると思いますよ?」
扉前にいたレイに驚くことなく、身内限定の笑みを浮かべたアスランはこれから向かう場所を告げた。
そんな主の様子を不思議に思ったレイは、自分も手伝うと告げた。
彼の任務は目の前にいるアスランの護衛であるため、共に行動することを咎める者はいない。
「・・・すまない。 ・・・この世界の伝承のことだ」
「伝承・・ですか?」
「あぁ。 ・・・伝説とされる光の精霊のことを・・・な」
2人は大理石で造られた回廊をカツンッと音を立てながら中庭に向かって歩き出した。
彼らの住まう城は、全て中庭に繋がっている。
そのため、皇族とその護衛たちの寝室のある塔から別の塔に向かうには、中庭に行かなければならないのだ。
塔は大きく分けて二つある。
一つは定期的に報告に来る貴族や軍属の将軍たちが立ち入ることの許される解放区。
もう一つは、皇族及び皇族の護衛や侍女たちが立ち入ることの許される専用区であった。
彼らの向かう図書館は、解放区の一室にある。
中庭に出た彼らは、中庭に面している部分だけ解放された回廊を歩き、解放区へ向かっていた。
そんな中、何かに導かれるようにアスランは中央に造られた噴水の中央に佇む、
初代皇帝と皇后の像と彼らの中央に咲いていると錯覚させられる菖蒲の庭園を見つめた。
「・・・兄様?」
立ち止まった主を心配したレイは、静かに彼に近づいた。
気配に聡いアスランは近くにレイが来たことに気付いていたが、
アスランは目の前に咲き誇る菖蒲を見つめていた。
(・・・菖蒲・・・か。 夢に出てくる彼女に、似合うだろうな)
彼の思考には、夢でしか出会えない少女の姿が思い浮かべられていた。
そんな自分の思考に苦笑いを浮かべたが、表情には一切出ておらず、
幼少の頃から共に過ごしているレイでさえ、気付かないほどであった。
レイに視線を向けたアスランは、彼のよく知る微笑を浮かべると再び図書室に向かって歩き出した。
既に解放区にいる彼らに、地方の貴族たちが礼をしてゆく。
そんな貴族たちに対し、レイはきちんと目礼するが、アスランはひたすら目的地である図書室に向かっていた。
エターナルの誇るディセンベル城内に創設された、国の最高峰と言われる図書室である。
国の様々なところにも図書館は造られているが、それらは全て国民向けに発行されたものが収納されている。
城内にある図書室には、国民向けに発行されたもの以外にも国の歴史、
同盟国であるヴェサリウスやアークエンジェルの歴史などもある。
図書室の一角に、厳重な扉で閉ざされている区域がある。
その区域は閲覧禁止室となっており、扉が開く条件は皇族となっている。
扉には魔法が施されており、皇族以外の者が触れると扉全体から微力だが電撃が流れる。
電撃は全身に回り、気絶している隙に全身を巡っていた電撃は具現化され、その者を拘束する。
また、具現化されても元が電撃の為、抜け出そうともがくと電撃が流れる仕組みとなっている。
その仕掛けもまた、魔法によって作られている為魔法発動を感知した城の近衛兵たちがその者を拘束するのだ。
扉の中央にレリーフが施されており、その中央にルビーのような真紅の宝玉が嵌め込まれている。
アスランは、その宝玉に右手を翳した。
翳された右手からは淡い光が放出され、
彼と契約を交わす火の精霊たちも彼の力に反応したのか、その姿を現した。
『我らと契約せし、火の騎士よ。 我等の力、汝に貸そうぞ』
突如響いた声は、アスランの翳した右手から放出されている光と合わさり、
透明だった魔力が真紅へと染まった。
宝玉に吸い込まれるかのように光は徐々に消えて行き、
硬く閉ざされていた扉はギィと重々しい音を立てて前方に開かれた。
「火の精霊が・・・力を?」
「・・・彼らは出てくる時は突発だからな。
それに・・・この城は元々彼らの力を借りて創り出したと言われている。
・・ここに出てきても、不思議じゃないさ」
「・・・火の精霊は、代々エターナルの皇族と契約を交わすと言われております。
兄様は、歴代の中で最も強い魔力を保持されております。
火の精霊は、兄様のお力になりたいのですね」
アスランの行動を静かに見守っていたレイだが、
アスランの力に同調するかのように合わさった火の精霊の力を感じた。
その力にレイは驚きを隠せなったが、アスランにとっては常に感じる気配の為驚くことはない。
火の精霊と契約している彼は、契約した直後から死が訪れるまで精霊の加護を得る。
精霊たちは契約した者を主と認め、如何なる時も主を護ろうとする。
そのため、精霊たちの気配を常に感じるのだ。
アスランの言葉にレイは不思議そうな表情を浮かべたが、
アスランの回りを護るかのように淡い真紅の光が全身を包み込むかのように微かに光ることに気付いた。
「・・・見えたか。 俺に近い力の持ち主だから見えるのだろう。
・・・先ほど、精霊の力を借りたことも関係しているだろうがな」
レイが凝視していることに気付いたアスランは、苦笑いを浮かべながら彼が見ていたものを悟った。
尤も、彼が火の精霊と契約しているという事実は、肉親だけでなく世界の人々に知られていることであった。
世界・・・オーブでは様々な精霊が住まう世界である。
だが、それぞれの国に象徴と謳われる3大精霊がいた。
その精霊たちは世界を創り出した4大元素の精霊たちである。
ヴェサリウスは水の精霊が守護し、水の都に。
アークエンジェルは風の精霊が守護し、風の都に。
そして・・・エターナルは火の精霊が守護し、火の都に。
大地の精霊は、オーブを護る為に平等に守護するとして、神殿に住まう巫女と契約を交わしている。
国の象徴の為、それらの精霊たちと契約を交わした者は、皇帝とは別に国の代表に選ばれる。
そのため、世界の人々は契約者を知ることとなるのだ。
開かれた扉から中に入ったアスランは、すぐさま世界の伝承が伝えられる文献を探し始めた。
「兄様。 兄様は、一体何をお探しなのですか?」
そんなアスランに対し、レイは不思議そうな表情を浮かべながら、
彼が何を探しているのかをまだ尋ねていなかったことに気付いた。
「・・・あぁ・・・・。 まだ教えていなかったな。
・・・俺が探しているのは、この世界に伝わる伝説と謳われる光の精霊。
そして、光の加護を受ける光の女神についてだ」
「光の精霊・・・についてですか? しかし、何でまた・・・」
「・・・普段の俺からだと、考えられないか? まぁ、俺自身信じられないさ。
だが・・・半年以上前から不思議な夢を頻繁に見るんだ。
夢を見ることについては、既に調べがついている。
夢を見るのは、俺が火の精霊と契約を交わしているからだな」
レイの問いかけに、文献を探す手を止めることなく今更気付いたかのように頷き、簡潔に告げた。
告げられた言葉に、アスランの性格を熟知しているレイは、驚いた表情を見せた。
そんなレイの表情を横目で確認したアスランは、苦笑いを浮かべ、自分自身も信じられないのだと自嘲した。
「兄様・・・。 分かりました。 俺も探してみます」
「すまない、レイ。 ・・・ジャンルは既に定まっている。
光の精霊と光の女神・・・この二つのキーワードが関連するのは、『世界の創世』だ。
もちろん、コレは一般に開放されている図書室でも同じこと。
・・・だが、あそこには民衆に広まっている伝説としてしか置かれていない」
「・・・ですから、兄様はこちらに来られたのですね?
民衆の知らない・・・皇族と近しい者にしか伝えられない事実を確かめる為に」
レイはあまり見ることのないアスランの自嘲に、安心させるかのように微笑を浮かべた。
そんなレイの気遣いに、アスランは苦笑いを浮かべながら探す場所へと向かった。
彼は既に、自ら見る夢に関しての調べものと同時に一般に公開されている図書室でも調べていた。
しかし、そこにある文献は国民に知られているような伝説であった。
調べて行く内に、彼は幼い頃に父親であり皇帝であるパトリックが短い時間の間、
彼の枕元にいた時に話してくれた皇家に伝わる昔話を思い出した。
初代皇帝もまた、アスランと同じ火の精霊と契約を交わし、精霊から“火の騎士”と呼ばれていた。
そして、初代皇后は光の女神という言い伝えであった。
そのことを思い出したアスランは、その仮説を立証する為に光の精霊と女神に関しての文献を探し始めたのだ。
「・・・まぁ、探し物はすぐに終わるさ」
アスランはゆっくりとした足取りで世界に関する文献の棚を見つけると、左手を翳した。
左手からは淡い紅の光が揺らめき、ある一点のところで淡い光が強さを増した。
強い光を放つ場所で立ち止まったアスランは、
左手は翳したままで右手を本棚に寄せ、一つの文献を手に取った。
「それは・・・『世界の創世』ですね」
レイは取り出された文献の表紙に描かれるモノが、
伝承として伝えられている最後の部分の一部だということに気付いた。
レイの言葉にアスランは頷くと、その文献を片手に中央にある机へ向かった。
机の中央に文献を置き、備え付けの椅子に座ると文献を開いた。
かつて、この世界は“光”と“闇”が共に暮らしていた。
平穏に暮らしていた彼らの前に、7人の少女たちが舞い降りた。
彼女たちはこの世界の住人ではなく、この世界と平行した世界に住む者たちだった。
この世界に来て、1人の少女は光の精霊と契約し、光を加護する女神となった。
1人の少女は水の精霊と契約し、水を加護する女神となった。
1人の少女はは風の精霊と契約し、風を加護する風の女神となった。
1人の少女は地の精霊と契約し、世界を見守る巫女となった。
だが、残る3人の少女たちは、精霊たちに認められることが出来なかった。
光の女神となった少女の姉は唯一残っている火の精霊と契約をしようとして、精霊たちから拒絶された。
その少女が契約を交わそうとした精霊は特殊で、契約するための条件が火を守護する騎士に認められることであった。
光の女神の姉は、火を守護する騎士に認められなかったのである。
その条件を満たす少女は2人いた。
拒絶された者とその妹である光の女神である。
2人がこの地に舞い降りた時、助けたのが火を守護する騎士とその義兄であったのだ。
光の女神は火に守護された騎士に認められ、火の精霊と契約を交わす。
その契約に対し、認められなかった者は妹を憎むようになった・・・・。
〔『世界の創世』引用〕
文献には、数ページも渡る彼らの住む世界・・・【オーブ】と、
鏡の世界とされる【ダークネルス】が二つに分かれた伝承が書かれていた。
3人の女神と3人の騎士については、それぞれの精霊が守護している国の民衆たちも知っているほど、有名である。
だが、民衆たちに知られている伝説は、ここに書かれている内容とは若干違う。
皇家に伝わる伝承は事実に基づいているが、民衆に広まっている伝説は余計な混乱を招かないように、
女神たちが異世界から召還されたことは消されていた。
3人の女神・・・即ち皇家にとって始祖に当たる。
それにより、事実を代々伝え続けているのだ。
「・・・光の女神がこの国の始祖? ・・・夢に出てくるあの少女は・・・光の女神・・・なのか?」
「・・・兄様。 決断なされるのは、まだ早いですよ。
光の女神なのであれば、伝承の通りこの世界に召還されているはず。
・・・違うということは、まだ覚醒していないということなのでは?」
『我らと契約せし、火の騎士よ。
汝に、我が同胞・・・地の精霊と契約せし、巫女姫からの託を言う。
火の騎士よ。 汝に、伝えたいことがあるとのこと。 すぐさま、神殿に向かわれよ』
突如耳に響いた火の精霊の言葉に、驚いたアスランは目を通していた文献をすぐさまもとの場所に戻し、
驚いた表情を浮かべているレイに視線を送った。
「・・・火の精霊が教えてくれた。 神殿にいるラクスが、俺たちに至急伝えたいことがあるとのこと。
・・・何か、神殿の方であったのかも知れん。 こちらの用は、大方終わった。 神殿に向かうぞ」
「了解いたしました」
アスランの言葉に、驚きを隠せないレイだったがすぐさま頷くと競歩のように早くなるアスランの後を追った。
閲覧禁止区域から出た2人が向かった先は外ではなく、専用区の一室にある鏡の間であった。
通常、神殿に向かうのには外からなのだが、精霊と契約を交わす皇族のみが使用できる移動方法がある。
鏡を使って移動する方法なのだが、鏡に施される魔法を始動させるには精霊の力を借りなければならない。
鏡の下の部分に精霊の名が刻まれており、全体には魔法陣が描かれている。
そして、鏡に映し出された者が範囲内とされて一気に神殿入り口へと移動するという仕組みだ。
尤も、この方法を知っているのは皇族だけなのだが、皇族も頻繁にこの方法を使用しない。
至急以外は、通常のルート・・・城から出て外から向かう。
鏡の間に入室したアスランたちは、中央にある鏡の前に立った。
アスランは後ろにレイがいることを確認すると、目の前にある鏡に左手を翳した。
左手からは紅の光が輝きだし、鏡の縁にある溝に光が吸収されてゆく。
全ての縁に光が吸収され、鏡全体が紅に光った。
淡い光だったものが徐々に大きくなり、強い光に変わった瞬間、あまりの眩しさに二人は目を瞑った。
強い光の気配を感じなくなったアスランは、ゆっくりと瞼を開いた。
彼らの目の前には、鏡ではなく神殿があった。
数メートルにも及ぶ高さのある石の柱が左右に聳え立ち、長い回廊が続いている。
回廊の最奥には、重厚な木製の巨大な扉があり、扉の中央と縁には地の精霊が施した結界が張られている。
尤も、その結界は力在る者しか気付く事はない。
精霊は世界を護る役目を担うが、
地の精霊と契約を交わす神殿に住まう巫女姫を護るのもまた、地の精霊たちの役目である。
そのため、神殿に近づく者たちの中に少しでも巫女姫に害をなすと判断されると、
中に入ることは出来ずに拒絶されるのだ。
結界の施されている扉を開き、正面にある扉に向かって2人は歩き出した。
「・・・兄様。 こちらにある像は、ディセンベル城にあるものと少し違いますね」
「そうでしょうね。 こちらにあるのは、この世界にある皇家と神殿に伝わる伝承に基づいたもの、ですから」
中央に向かうにつれ、目の前に迫ってくる7体の巨大像に対し、
レイは自分たちの住まう城にある初代の像とは少し違うと感じていた。
そんな彼の疑問に答えたのは、アスランではなく若草色の髪とトパーズの瞳を持つ青年であった。
「・・・ニコルか。 ラクスから、至急だと受けてきた。 ・・・何があった?」
「お久しぶりです、皇子。 ・・・そのことは、祈りの間におられるラクス様にお聞きください」
アスランは奥から姿を現したこの神殿を護る神官長・・・ニコル=アマルフィに驚くことなく、
ここに来た理由を告げた。
地の精霊と契約を交わし、世界を見守る役目を担う巫女姫からの緊急な呼び出しに、
アスランは神殿で何かあったと予測した。
そんなアスランに対し、ニッコリと微笑を見せていたニコルはその笑みが一瞬強張ったが、
すぐにいつものような微笑に戻った。
そんなニコルの態度に憮然とした表情を見せたアスランだが、
ニコルの促しに軽く溜息をつくとレイを従えて祈りの間に続く回廊を進んだ。
祈りの間へと続く扉に着いた2人は、その扉を開こうと扉の中央に手を翳した。
翳された扉は、アスランが触れることなく自動的に解放された・・・・・・。
―――― ギギギィー
重厚な音を立てて開いた扉の先には、部屋の中央にローブを身に纏う女性が座っていた。
「ご足労、おかけ致しました。 アスラン様、レイ様。
・・・お2人を至急とお呼びいたしましたのは、
この神殿において最も重罪な行為を犯した者がいたと、報告する為ですわ。
・・・私が名誉ある巫女姫に選ばれた際、
共にこちらに参りました私の妹・・・ミーアが、一昨日忽然と姿を消しました。
・・・すぐさま、彼女の気配を追ったのですが・・・すでにこの地にはおりませんわ」
中央に座っていた女性・・・ラクス=クラインは地の精霊が自ら選んだ巫女姫である。
古来より、地の精霊に選ばれし娘を巫女姫とし、
ある一定期間は神殿の祈りの間で世界の安定を祈らなければならない。
その条件として、最も優れた魔力の持ち主でなければならない。
その条件をクリアしたラクスは、双子の妹と共に神殿で暮らし始めた。
そんな彼女の妹が、聖なる神殿において最大の禁忌とされる行為・・・無断で神殿から姿を消すという行為を行った。
元々、神殿は閉鎖空間ではない。
だが、それはあくまでも一般だけである。
神殿を古来より守り続ける精霊が選び出した娘やその娘に最も近い血を持つ者は、
巫女という国で最も名誉ある役職を選ばれた者が一定期間を終えるまで無断で出ることは叶わない。
精霊に選ばれた者はもちろん、共に来た血縁者も共に精霊の加護とその身を清める。
その清めは、外の空気に触れてはならないとされるほど、洗礼されている。
その為、神殿ないにも受けられている庭以外、外に出ることは叶わない。
「この地にはいない? ・・・まさか、国外逃亡をなされたのですか?」
「・・・いや。 それは考えにくい。
隣国であるヴェサリウスやアークエンジェルは双方とも馬を飛ばしても国境まで1週間もかかる。
今日、この神殿を出てすぐに気配が消えるなど・・・ありえない」
「アスラン様の仰るとおりですわ。 ミーアは馬に乗ることも出来ません。
そのような者が、国境を越えたとは考えにくいですわ」
ラクスの言葉に、レイは驚きを隠せない表情で一つの考えを口にした。
そんなレイの言葉を、冷静に聞いていたアスランは否定した。
否定したアスランに、ラクスは同意するように頷いた。
『・・・我と契約せし、巫女姫よ。 汝の妹、ミーアはすでにこの世界におらず。
最後にその者の気配を感知した場所、世界の狭間なり』
突如、祈りの間に響いた地の精霊の声に対し、
その意味を正確に理解したアスランとラクスは、驚愕の表情を浮かべた・・・・・・。
2007/09/05
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