「私たちに出来ることは、無事をお祈りするだけです。 教えてくれてありがとう。
貴女の身に、神のご加護がありますように」

突然の失踪。
そのことから予測されるのは、身代金目的の誘拐・・・・?
嫌がらせを何度か受けてきたけど・・・・それでも彼女たちは同じ学院に通う生徒たち。
きっと、シスターたちもご心配なされる。





・・・・私たちに出来ることは、こうして彼女たちの身の安全を神に祈ることだけ・・・・・。








光と闇のレジェンド
         ― 動き出す闇 ―








昼休みに伝えに来てくれた1年生たちの言葉をキラは授業中の間、思い出していた。




(アスハさんたちが、誘拐・・・・無事だといいのに・・・・)




例え、キラを目の敵にしていようともキラは、攫われたというアスハやホーク姉妹の無事を祈らずにはいられなかった。







放課後、キラたちはヤマトの家から何時も送り迎えをしてくれている車に乗り、自宅へと帰った。
フレイとミリアリアは自宅で制服から私服に着替えてから、勉強の道具と共にキラの屋敷へとやって来た。



「それにしても、誘拐なんて・・・・」



勉強の合間に、フレイは昼休みに聞いた事をきり出す。



「そうよね。 お金目当て誘拐かしら?」



それを受けてミリアリアも行方知れずのアスハとホーク姉妹の事が攫われた事を詮索しだす。



「・・・・・」



キラは、自分に対して嫌なことしかしなかったアスハやホーク姉妹が心配だった。



「キラ? あんまり心配しない方がいいわよ」



フレイは、キラが何を考えているのか判り溜め息をつきながら言った。



「そうよ。 普段の行いが悪いからこうなっただけだし」

「・・・・でも・・・」



それでも、キラは心配をしてしまう。



「でも、じゃあないわ? あいつ、キラに何してた? わかってるでしょ」



フレイは、今までアスハにされてきた事を思い出してキラに詰め寄る。



「それでも、無事でいてほしいし・・・・」



キラは、今の自分の気持ちを二人に伝えた。



「・・・・キラって優しいわよね」



ミリアリアはキラの人を思いやる気持ちに嬉しそうにしていた。



「・・・・優しくなんてないよ・・・」



ミリアリアのその言葉にキラは首を振り違うと示す。



「もうこの話は止め止め! もっと、違う話しましょう」



キラの様子を見て、フレイは気持ちを切り替えさせようと明るい声を出していった。



「そうね。 ねえ、今度の日曜日に皆でショッピングいきましょう」

「そうだね。 兄様やプレア、エルと一緒に行こう」



その後、キラたちはその話をして、気持ちを切り替えていった。






その日の夕食の後、キラは兄のカナードに話しかけた。
今日、学校で言われた事を相談するために。



「兄様。 今日学校でアスハさんとホークさんとこの姉妹が行方不明になったって噂聞いたの」

「・・・・大学でも、その話が流れていた。
父上のところにも電話があったそうだ」



今日、昼間あたりからカナードの通う大学部でもその話が流れていた。
そして、帰ってきてから父であるハルマから書斎に呼ばれ行ったらそう言われた。



「・・・・え?」

「お前たちが攫ったんだろって言ってきたんだ」

「そんな・・・言い掛かりを・・・」

「父上も、そう言われたそうだ。 だが、きっと、また言ってくるだろうな」



カナードは忌々しいと言わんばかりの顔をする。



「・・・・・」

「兎に角、キラはもう、このことで悩むことはない。 してはいけない、わかったな」



キラに、もうこれ以上悩むなと念をおす。



「うん、兄様」

「もう、遅いからお休み」

「はい。 おやすみなさい、兄様」

「おやすみ、キラ」



カナードはキラの額にキスを一つ送って部屋に入れた。




(ああ、ここはいつもの夢の中・・・・)




何時も見る夢の中にいるのだとキラは思った。
この後にあの人も直ぐ来る、そう思った時、ふわりと優しく後ろから抱きしめられた。



「      」



身体に伝わる振動で、彼が喋ったことがわかり、キラは彼の顔が見たくて彼の腕なのかで身体を反転させた。



「会いたかった・・・貴方に」



キラからも抱きしめてくれる彼にそっと縋りついた。



「             」



彼も、自分に会いたかったのかなとキラは心の中で思った。
いや、そうであって欲しいと願った。
夢の中の彼とはこうして抱き合える。
でも、声だけは聞こえないそのことがキラには辛かった。



「              」

「あなたの声が聞きたい・・・・」



そっと、彼の胸に顔をうずめそう囁く。
そして、キラは目を閉じて 彼の鼓動に耳を傾けた。 



唯一、聞こえるその音に・・・・・。








「キラ様。 そろそろ起きてください。 お目覚めのお時間ですよ」



キラつきのメイドのアイリーンが、声を掛けながら部屋の扉をノックしてくる。



「あ、もう朝・・・・」



眩しい朝の光が、カーテンの隙間から零れている。
今日もいい天気のようだと思いながら、キラは目を擦りながら身体を起こした。



「おはようございます。キラ様」

「おはようアイリーン」



キラが起きている事を確認してから、アイリーンは部屋へと入ってきて、丁寧にカーテンを開け、朝の空気を入れ替えるように窓を開ける。
幼い時からずっと自分に尽くしてくれるメイド頭のアイリーンに朝の挨拶をしながら、キラはベッドをおり学校に行く用意を始める。



「今日も、いい天気ですよ。 ハンカチをいつもより一枚多めにお持ちくださいね」

「うん。 そうする。 お父様たちはもう、食堂にいられるの?」



アイリーンにそういわれながら手渡されたハンカチを丁寧に鞄の中へとしまうと、家族の所在を確認する。



「いえ。 桔梗の間(リビング)の方で朝刊をお読みになってられますよ」

「そう。 桔梗の間によってご挨拶してから、牡丹の間(食堂)に行くね」



そうして、キラの日常がまた、静かに始まった。








〜異世界・ダークネルス〜






《・・・・闇に潜みし悪霊たちよ。 今こそ、汝らの女神をこの地に! 『女神』召喚!!》




召喚の呪文を唱えて、黒の巫女のミーアは気絶してしまった。



「やはり、紛い物は紛い物だな。 この機械を使っても、召喚できたかどうか・・・・」



黒い微笑を浮かべながら、メサイアを治めている皇帝デュランダルはミーアの側においてある不気味な装置を見詰める。



「さて、召喚してもらった、女神を迎えに行かないとな。 シン、そこにいるかい?」



デュランダルがそういえば、柱の影からシンと言われた少年が現れた。



「何、父上?」

「今から、私が言う地点に行ってきてもらえないかね。1人の女神がいるはずだから」



パッチンとデュランダルが指を鳴らすと、何もない空間にこの世界の地図が浮かび上がってきた。
そして、目的の場所であるところが点滅していた。



「・・・わかった。 ここに、連れてくればいいんだな?」

「ああ、そうだ。 気をつけて行っておいで」

「はい」



デュランダルの言葉を聞いて、シンはその場所から離れていった。



「さて、他の国の皇子たちにも動いてもらわないとな」



そういいながら、手元にあった通信装置をオンにして、通信を繋げた。






【ミネルバ:城内。ゴミ置き場】




「もう! なんなのよ! ここ!!!」



赤い髪のツインテールの少女が喚いていた。
悪臭の漂うゴミ置き場で。



「臭い!! もう嫌!!」

「おい? 大丈夫か?」



ゴミ置き場で喚いていた少女に、1人の少年が声を掛けてきた。



「誰でもいいわ! ここから引き上げてよ!!」

「・・・・なんでお前、こんなゴミ置き場なんかに落ちているんだよ・・・・・」

「知らないわよ! 急に穴が開いて落ちたらここに落ちたのよ! もうっ、臭い! お洋服に匂い付いちゃうよう!!」

「・・・・ほら、手えだせよ」

「・・・うん」



喚いている少女に手を差し伸べて、少年は少女の身体を立たせてやった。



「よっと。 取り合えず俺の住んでるとこ行こうか」

「お風呂ある?」

「ああ、行ったら入れよ」

「・・・・ありがとう」



少女は、少年の言葉に礼を言った。



「じゃあ、行こうか」

「うん」



少年に連れら少女は少年が住むところへと向かった。






同時刻。【メサイア:迷いの森。ヘドロ沼】




「なんなの・・・・。 臭い・・・」



赤い髪のショートヘヤーの少女は、呆然と悪臭漂う泥沼にどっぷりと浸かっていた。



「おい。 そこのおまえ」

「なによ。 あんた誰?」



自分を汚いものを見るような目で見る少年に少女はキツイ眼差しを向けた。



「おまえを迎えにきたんだ。 父上の命令でな」

「・・・・迎えに?」

「それにしても、おまえのカッコ汚ねえなぁ・・・・。 城に連れてくのやめてえ・・・。 けど・・・・父上の命令だし」

「っ!! 汚くしたくてしてないわよ! 気が付いたらこんなところに落ちてんだもの!!」



そう言って、ルナマリアは、ドロを手に掴んで目の前にいる少年に投げつけた。



「なっ! なにすんだよ!!」

「なによ!」



二人は、誰もとめるものがいなかったため、力尽きるまでドロを投げ合っていた。






同時刻。【クサナギ:城下。豚小屋】




「・・・・・豚・・・・なのか? ・・・っよ、寄るな!!!」



金の髪の方に付くくらいの少女は、迫ってくる豚と豚の排泄物の匂いに恐怖を覚えていた。



「あv いたいたv 迎えに来たよv 僕の女神」



豚に迫られていた少女の耳に、暢気な声が聞こえた。



「・・・・何もんだ! おまえ!!」

「あ、僕はユウナって言うんだ。 君、名前は?」

「・・・・・カガリ。 カガリ=ユラ=アスハだ」

「カガリかぁ・・・いい名前だね。 君に合ってるよ」



少女の問いに少年というより青年は、うっとりしながら少女の顔を見詰めてそう言う。



「・・・・ところで、ここは何処なんだ?」

「あ、ここは、クサナギ城下の豚小屋の中だよ」

「・・・・・豚小屋? この私がこんな場所に落ちるなど・・・・」



少女は、自分が何故、このような汚い豚小屋に落ちなければいけないのか納得がいかなかった。



「そうだよね。 君にこの場所は合わないよ。 じゃあ、僕の住んでいる城に行こう」

「・・・・お前。 城に住んでいるのか?」

「うん。 僕はこの国の皇子だからね」

「・・・皇子。 ・・・・・・おまえがか?」



青年の言葉に少女は信じられない顔をする。



「信じてくれないのかい? じゃあ、さっさと城に行こう」



そういうなり、青年は少女の腕を掴むと引っ張るように歩き出した。



「あ、そこに馬車止めてあるから大丈夫だよ」



少女が何か言う前に、青年は馬車の中に押し込んでしまう。



「さあ、城に戻ってください」



青年の一言で、馬車は一路城へと向かった。






各城で、皇子たちに拾われてきた少女たちが落ち着いた頃を知っているみたいに、黒の巫女から連絡が入った。
直ぐに、メサイアの城に来るようにと・・・・・。




そこに着くと、赤い髪のショートの少女がいて、金の髪の少女、赤い髪のツインテールの少女は驚いた。



「お前、ルナマリアか。 お前もここに落ちたのか?」

「え? カガリさん・・・貴女もなの?」

「あ、お姉ちゃん」

「メイリン。 あんたもなの?」



感動の対面を果たしていた時、扉からピンクの髪に露出の激しい衣装を身に纏った少女が現れた。



「女神様たち。 ようこそダークネルスに。 私は黒の巫女・・・ミーア=キャンベルですわ」

「「「女神?」」」

「こいつらが? 冗談だろ」



ミーアの言葉にシンは文句を言い出す。



「冗談ではないですわ。 この私が召喚した方々ですもの」

「まあ、シン。 少し、黙って聞きなさい」



父親である皇帝からの言葉でシンは黙ってしまう。



「私たちをこんなところに連れてきて、何が目的だ!」

「貴女方にして頂きたい事があって、この地に召喚したんです」



そういうと、ミーアは水鏡に手を翳した。



「水鏡よ。 我の願いを聞き届け、かの地を映し給え」



その途端、おぼろげな映像が水の表に浮かびだした。



「わからないじゃないか? 何が映っているんだ?」

「もう少し、綺麗に映るまで時間が掛かるんです」



そう言っている間に、水鏡には、紺瑠璃色の髪をした美しい容姿の青年が映し出されていた。



「「「・・・・」」」



その容姿に、覗き込んでいた召喚された少女たちは一目でこの青年が欲しくてたまらなくなった。



「この方は、オーブの一国であるエターナルの皇子。 アスラン=ザラです」



この黒の巫女のミーアもこの青年アスランに思いを向けていた。
自分がした行為で自ら敵を作ったことに気が付きもせずに・・・・。



「オーブとは、なんなんだ?」

「こちらのダークネルスが、闇の世界なら、オーブは光の世界。 数多の精霊に守られし国です」

「で、どうしろと? 私たちに」



このミーアの言葉にカガリは、この世界を手に入れれば水鏡に映る青年を手に入れられる可能性を見つけた。



「手に入れて欲しいのです。 この世界を・・・貴方たちのお力で」



黒い微笑を浮かべたミーアを見詰めて、カガリたちは各々、あの世界を手に入れようと考え始めた。



「判った。 あれを手に入れるように、まあ、力は貸そう」



ミーアに向かって、少女たちは黒い笑みを浮かべていた。





(まあ、精々私のために頑張って欲しいものだね)





それを見て、デュランダル皇帝は薄っすらと口元に笑みを浮かべていた。
そのことに、気づきもせず少女たちは見果てぬ夢を心に浮かべていた。







――――― 夢は夢でしかなかったと気づくのはもう少し後・・・・









第一章、完結









不思議な夢にて出会う男女。
少女たちは、人には聞こえぬ声に導かれるように異界の地へ召喚された。
召喚された異界の地で、彼らは出会う。
光の宿星が、今目覚める――――――。





2006/09/05