「・・・また、あの夢・・・・」
ここ3年間・・・正確には僕が16歳の誕生日を迎えた頃から毎日のように見る不思議な夢・・・・。
始めは、姿すら見れなかったけど・・・今では触れられる夢の中の貴方。
学校で、辛い時があったとしても貴方に抱き締められるだけでこの心は軽くなるような気がするの。
光と闇のレジェンド
発展を遂げたコペルニクスにあって清閑な佇まいを残すこの地には、古くからの学校があった。
この学院は、幼等部・大学部と大学院以外の校舎は全て、
「アスハさん! あなたは、どうして学院の規律を守らないのですか?」
中庭の噴水の近くで、生活指導のシスターに1人の生徒が呼び止められていた。
「ちょっと、あの子また、シスターマーナにお小言貰っているわよ」
燃えるような紅い髪を背中まで伸ばし、清潔感を出すために両サイドの髪をゆったりと後ろで一つにして
「あら、ほんと。 懲りない子ね」
透き通るような栗色の髪を肩まで伸ばし、少々癖毛があるのを上手く利用して肩のあたりで外に向かって跳ねさしていた少女がそれに応えた。
「二人とも、あんまり見ない方がいいよ?」
その二人を、艶やかな鳶色の髪を腰のところまで伸ばし、後ろで三つ編みで一つにして纏めている少女が注意していた。
「そうね。 あんまり見ていていい気しないし」
そう言っているうちにその少女に小言を言っていたシスターが、他のシスターに呼ばれたかその場から去っていくところだった。
「僕たちも、そろそろ、次の授業の準備しないとね?」
鳶色の髪の少女たちがその場を去ろうとした時、大股でお小言を貰っていた少女が近づいてきた。
「おい! ヤマト!」
呼び止める声に素直に振り向いた少女に、お小言を貰っていた少女が肩を突き飛ばした。
「な、何をするんですか!」
慌てて紅い髪の少女と栗色の髪の少女が手を貸して起こした。
「お前が、あいつに告げ口したんだろ!」
紅い髪の少女が、鳶色の髪の少女を庇うように前に立った。
「お前以外、誰が言うんだ! え! わたしに妬んでやったんだろ! 白状しろよ!」
栗色の髪の少女も理不尽なその言葉に反論する。
「・・・・ヤマト、おまえの家よりもわたしの家のほうが本当は上になるはずだったんだ!
それを汚い方法で手に入れたんだ!」
金の髪を振り乱し、鳶色の髪の少女の胸倉を掴んで捲くし立てた。
「・・・・・どういうことですか? ・・・」
鳶色の髪の少女が、どういうことかと聞こうとした時。
「アスハさん! あなた、リオン=キラに何をなさっておられるんですか?」
先ほどまで、金の髪の生徒を注意していたシスターマーナが、再び戻ってきて見咎めた。
その隙に、三人は校舎の中へと入っていった。
「はぁ・・・・」
校舎に入ってから鳶色の髪の少女は、深い溜め息を一つついた。
「どうしたのキラ? 溜め息ついたりして? 何か悩みでもあるの、相談に乗るわよ?」
キラと呼ばれた鳶色の髪の少女は、憂い顔で友人である二人の顔を見詰めた。
「・・・・夢をね・・・見るの」
キラは、ぽつぽつと夢の出来事を話し出した。
「うん」
紅い髪の少女・・・・・フレイ=アルスターが返事を短く返した。
「高等部に上がった頃。 丁度、僕の誕生日の日から見始めたんだ」
キラは、夢の中の出来事を思い出すように語る。
「うん」
次は、栗色の髪の少女・・・・・ミリアリア=ハウが促すように返す。
「最初の方は、白い霧があって回りとか見えなかったんだけど、でも、そこに誰かいるってことはわかったんだ。」
そう、キラは旧華族という家柄のため幼い頃から、上の兄と共に武道を教え込まされていた。
「・・・・」
キラの言葉に、フレイとミリアリアは黙って聴くことにした。
「何回か見るうちに段々向こうにいる人の姿もわかるようになって、今は姿も触れるんだけど・・・」
見るうちに、相手の姿がわかり、キラは会うたびに心が魅かれていくのがわかった。
「うん、それで?」
ミリアリアは、そっと、促す。
「でも、声だけは聞こえないの・・・。 ノイズに掻き消されて聞こえないの・・・」
そう、声だけがノイズに掻き消され聞こえないのだ。
「・・・それだけで、溜め息じゃあないわよね?」
フレイは、溜め息の理由にはいたらないと考えキラに聞く。
「僕ね、その人に会いたいの。 側にずっといたいの・・・。 でも、夢の中でしか会えないから・・・」
キラの顔は、切ない表情を浮かべていた。
「・・・・ねえ、ミリアリア。 キラのこの症状って、恋煩いじゃないの?」
二人はキラには聞こえない小さな声で会話をした。
「兎に角、もうじき授業も始まるから教室に戻りましょう、キラ」
ミリアリアは、腕時計を見て授業が始まる時間が迫ってきたことを告げる。
「うん。 もどろ」
そして、キラとミリアリアは三年の教室のある方へ、フレイは二年の教室のある方へ歩いていった。
今日は、梅雨の晴れ間で、よかったと長い黒い髪を後ろで束ねた青年が、車の窓から空を見上げた。
「カナード様。 今、エルにメール入れました」
男子部にいる、ミリアリアの弟のプレアと先に待ち合わせて車に乗せて、
「そうか。 俺もキラにメールを送るか」
そう言って、羽織っていた薄手の上着の内ポケットから携帯を取り出し、手早くメールを打ち送った。
「今、教室を出たみたいですエル」
携帯をしまいながらプレアは、車の助手席から降りた。
「こっちもだ。 フレイと合流してここにくる」
カナードも、ゆっくりとドアを開け優雅に降り立った。
「今日から、期末試験の勉強のために1週間クラブはお休みですから、久し振りに皆さんと帰れるかと思うと嬉しいです僕」
プレアは嬉しそうに照れた笑顔をカナードに向けた。
「そうか? おまえがそういうのも久し振りだな」
カナードも優しい笑顔をプレアに向けた。
「そうですか? カナード様にはよく言ってるつもりなんですけど」
首をかしげながらカナードを見上げる。
「あまり、聞かないぞ。 でも、言ってくれると嬉しいがな」
その言葉にプレアは顔を赤くした。
「もうじき、出って来られますね」
プレアの言葉でカナードは、正面入り口の中のほうに意識を向けた。
「そうか・・・・何だ、あの格好は」
そう言ったカナードが見ていた方にプレアも視線を向けた。
「・・・・校則を無視していませんか、あれは・・・・」
正面入り口に近づく金の髪の少女の服装は、この学院に相応しくない着方だった。
「よく、入れたなアレで。 頭もよくなさそうだし」
蔑む様な目でカナードはその姿を見た。
「ああいう方の親は、きっと、娘のために沢山、献金されているんですよ」
こうしてプレアは、将来カナードの片腕となる片鱗を時たま見せる。
「兄様、プレアお待たせ」
カナードたちが金の髪の少女に目を向けている間に、キラたちはカナードたちの前に立っていた。
「来たのか。 ・・・あれは、何だキラ」
そう言って、カナードは派手に制服を着崩している少女に目線を向けた。
「え? ・・・・アスハさん・・・・」
キラは、丁度、正面入り口を過ぎた少女の後ろ姿をみて名前を言った。
「アスハか。 このところ勢力を広げてきたところだな」
カナードは、近い将来父であるハルマの後を継ぐための勉強をしている。
「はい。 かなり際どい事をしているとの噂もあります」
プレアもカナードに倣って将来の勉強をしている。
「アスハさんとは、クラス一緒なの兄様」
キラは、カナードに同じクラスであることを告げる。
「そうか。 どんな感じなんだ?」
そんなキラに優しく訊ねるがキラは何故か語ろうとはしなかった。
「キラが言いにくいのなら、わたしが言うわカナード様」
それにじれってフレイが横から口を出した。
「何故か知らないけど、キラのことを目の敵にしているんです」
フレイは、嫌そうな顔をして告げる。
「目の敵? どういうことだ?」
カナードは、目の敵と聞いて疑問を口にする。
「兎に角、キラを見かけるたびに言い掛かりを。 キラがやってもいないことをやったって言い張るんです」
その言葉を聞いてカナードは眉をひそめた。
「逆恨みもいいところじゃないか・・・」
カナードは苦々しい表情を浮かべる。
「キラ様にどうしてそのようなことをされるんでしょう? カナード様」
疑問に思ったことをプレアはカナードに聞く。
「そうだな。 何かそいつ言ってなかったか?」
カナードは、キラ、フレイ、ミリアリアに尋ねる。
「そういえば、わたしたちに自分の家のほうが上になるはずだったて言ってました」
今日の昼にキラたちに言っていた言葉をフレイは言う。
「どういうことだ・・・・」
フレイの言っていることを反復してカナードは考える。
「もしかしてアスハは、昔に、ヤマト家から分家されたとか、縁を切られたところとかではないでしょうか?」
ふと、思い当たることをプレアは口に出していった。
「・・・・それは考えられるな。 一度、帰って調べてみよう」
そういうと、カナードは優しい微笑をキラたちに向けた。
「兎に角家に帰ろうか。 さあ皆、車に乗って」
カナードの言葉に皆従い、いつもの指定席へと乗り込んでいった。
真実を知るため、一族の当主に伝わりし伝承と家系図を確かめる少女たち。
2006/08/15 |