「・・・見つけた。 確たる証拠を。 母様たちを殺した、憎いアイツらを徹底的に排除できるだけの証拠を。
僕の唯一無二の存在である彼を、奪おうとするあの卑しい女を抹殺できるほどの証拠」
自分たちにとって、都合の悪い事実を知っている父様たちを、テロに見せかけて殺したヤツら。
僕は・・・僕たちは許さない。
穏やかに暮らしていた僕たちを、突如土足で踏み躙って行ったヤツら。
理不尽な理由で、殺された父様たちを・・・・僕はこの目で見た。
絶対に、許さない。
僕たちの平和を・・・父様たちを自分たちの保身のために殺したアイツらを。
事実を知らない・・・ううん。
知ろうともしないくせに、アスランを僕から奪おうとするあの女も、許せない。
14. 昏いよろこび
「これで、やっとアスハを追い落とすことが出来る・・・」
アスランとキラが寝食を共にする戦艦の中の個室で、
自分用に強化したノートパソコンの画面を見ながら、キラは誰もがうっとりと見惚れる様な笑顔を浮かべていた。
そのキラの笑顔をアスランは、微笑んで見詰めていた。
「ああ、これで小母上たちの仇が取れる・・・」
「うん・・・」
アスランは、優しくキラの身体を後ろから抱きしめた。
「それに、僕のアスにちょっかいをかける、あのお転婆馬鹿姫にもお仕置きしないとね」
「やっと、公にあれを始末できるかと思うと嬉しいよ」
アスランは、オーブのアスハの姫が虫唾が走るほどに嫌いだった。
愛するキラを、自分から引き離そうとするからだ。
幼い頃から、キラとのいる時間を邪魔するあの女を、排除する事をどれだけ夢見たことか・・・。
これで、やっと大手を振ってこの世から抹殺することが出来る材料が、手に入ったのだ。
「隊長も首を長くしてこれを待っているだろうから、早くもって行こうアスラン」
「ああ、早くもって行こう」
キラは手を休ませる事無く、キーを叩き続きた。
最後のキーを押すと、キラはパソコンの電源を落とした。
「じゃあ、行こうか隊長の部屋に」
「うん」
そうして、キラとアスランは自分たちの部屋を後にした。
クルーゼの部屋に着いた二人は、部屋のインターホンを鳴らした。
「クルーゼ隊長、今、いいでしょうか?」
《ん、アスランか? キラも一緒かな?》
「はい。 一緒にいます」
《そうか。 入りたまえ》
「はい。 失礼します」
そう言って、アスランと、キラはキー操作をして隊長室へと入っていった。
「「失礼します」」
挨拶と共に二人は、敬礼をクルーゼに向けてした。
「二人とも、私しかいないときは、普段どうりでいいんだよ」
「ですが、一様今は戦艦内ですから、部屋に入るまではちゃんとしておかないと」
幼い時から側で見守ってきてくれていたクルーゼであっても、自分たちの上司となったからには、
その辺はちゃんとしようとアスランとキラは話し合っていた。
「相変わらず、そういうところは律儀だねアスランは」
そう言いながら、クルーゼは自分がつけているマスクを外した。
「ラゥ兄さまの素顔見るの、久し振りだね」
キラは嬉しそうに、ラゥの素顔を見詰めている。
「そうだね。 これは今、地球軍にいるムゥの為につけているが、ムゥが戻ってくれば外すつもりだよ」
クルーゼの遺伝子上のつながりのある兄のムゥは、
ラゥと共にザフトにに入隊したが自分の遺伝子を利用して地球軍にスパイとして潜り込んでいた。
そして今現在、逃亡を続けているAAに、後二人のザフト兵と共に乗り込んでいる。
「そういえばラゥ兄様、ムゥ兄様から連絡は着てますか?」
「ああ、早く迎えに来いと、せっつかれてるよ」
ムゥを生んだ母親が、実はコーディネ−ターであった事がアル=ダ=フラガの知ることとなり、
密かに自分の後を継がせるためだけに、自分のクローンをキラの父親であるユーレン=ヒビキに作らせた。
無事ラゥが生まれ、その後アル=ダ=フラガに一旦引き取られたが、
ムゥの母親がそれを知り半狂乱になり、ラゥを殺そうとして家に火を放ったが、
それに気づいたアル=ダ=フラガによって殺された。
その火事で、ムゥがラゥを抱き絞めて逃げ惑っていたところを、当時屋敷に仕えていた執事によって助けられたが、
アル=ダ=フラガは亡くなった。
ラゥとムゥは孤児となるが、執事がラゥがアル=ダ=フラガのクローン体だという事を知っていた。
まだ、この世に生まれでて間のないラゥ、
母親がコーディネーターであるムゥは地球軍やブルーコスモスに命を狙われる可能性が大きいと、
瞬時に判断した執事は、密かにヒビキ夫婦連絡を取り、二人を預けた。
事情を知り、二人を養子として引き取った彼らは、我が子と変わらない愛情を与えながら大切に育てた。
ムゥとラゥは、実の親以上に大切に愛情深く育てくれたヒビキ夫妻を殺したナチュラルが、嫌いだった。
だが、任務ということで我慢して3年前から地球軍にムゥは潜入捜査を行なってくれている。
まあ、そのムゥを抑えることの出来る二人の部下もつけておいたが、
いつまでも持たないだろうとクルーゼは思っている。
(ノイマンとマードックに、頑張ってもらうしかないな・・・)
「あ、例の物が手に入ったんだよラゥ兄さま」
そう言ってキラは、持ってきたパソコンを起動させてさっきまで見ていたものを、クルーぜに見せた。
「ほう、これはこれは面白いものを手に入れたね。 これでオーブ、いやアスハを滅ぼすことが出来そうだ」
そこに映し出されていたものは、
キラとスランがヒビキ夫妻が亡くなったコロニー・メンデルで手に入れてきた物だった。
ヒビキ夫妻がいた遺伝子研究所のコンピューターの中から消されたはずのデータを取り出し、
解析をして拾い出してきたものだった。
それは、オーブのアスハがカガリを自然妊娠して生まれたと発表していることと、180度違う内容だった。
カガリの母は、キラの母ヴィアの従姉妹で、地球の中立国であるアスハのウズミに嫁いでいた。
そのアスハ夫婦の間では、自然受精はしても上手く母体の子宮で育つことがなく、流産を繰り返していた。
そのため、夫婦は遺伝子研究をしているヴィアたちに相談。
検査を重ねた結果、母体に原因があった。
受精した卵子を異質のものと受け取り排除しようとするため、
着床することが難しかった。
上手く着床してもやはり排除しようと動いたため流産を繰り返していた。
だから、いくら一度体の外に出して卵子と精子を受精させて戻しても同じことの繰り返しになってしまう。
最後の手段は、人工子宮で育てることしか残っていなかった。
最初は渋っていたウズミだったが、
ヒビキ夫妻が秘密裏にしてくれるという事を約束してくれたことで人工子宮を使う事を承認した。
その後生まれたカガリを秘密裏にオーブに連れ帰り、今現在公表されているように情報を操作させた。
だが、いつかこのことがヒビキ夫妻の口から漏れないとも限らないと思ったウズミは、
二人を亡き者としようと考えた。
自分がヒビキ夫妻の暗殺をした事を隠すために、
わざとブルーコスモスに偽情報を流し、コロニー・メンデルを襲撃させ、その隙に暗殺部隊を送り込み、
夫妻を暗殺させてアスハに関するデータを消し去っていった。
その時、偶然ムゥ、ラゥ、キラとアスランはヒビキ夫妻の元を訪れていて、
夫妻が殺されるところを目撃してしまった。
そのショックで一時期キラはアスラン以外を受け入れようとはしなかった。
奇しくも、キラが6歳を迎える誕生日一日前だった。
「アスハも甘いな。 証拠隠滅したと安心しているだろうが・・・・実際データは、完全に消えるはずがない。
それすら、分からないのだから」
だが、コンピューターには、消したと思っているデータは残っている。
中にある記憶メモリーを完全に破壊しない限り、データは修復することが可能だからだ。
「本当に、変なところで抜けてるよね。 ナチュラルのやることって」
「まあ、そのお蔭でこうして、アスハを追い詰め追い落とす証拠が手に入ったのだから」
「ああ、これで義父さんたちの仇が討てる」
三人は、ほぼ同時に昏いよろこびの表情を浮かべた。
「これ、いつ流すの兄さま?」
ヒビキ夫妻の仇を討つと決意したときに、どういう風にするかは決めていた。
地球軍の上層部、ブルーコスモスの幹部クラス、
そして、オーブの民にこの事を公にした時、オーブの国はアスハを糾弾するだろう。
我々を騙していたのかと・・・・。
そうなった場合、確実にアスハの娘であり人工子宮で育ったカガリは、
地球軍につかまれば実験動物の扱いが待っているだろう。
もし、ブルーコスモスに見つかれば、その命は狙われ、奪われてしまうだろう。
況してやオーブに居座り続けることは、困難になるだろう。
どの道、カガリはこの世界から消えてなくなる確立は高い。
そうすると、アスハ家は跡取りを亡くし、血筋は途絶えてしまうだろう。
憎いアスハがこの世から消えたとき、キラたちの復讐の炎はやっと沈ますのだ。
「その情報を流すのは、もう少し待ってくれるかい。 ムゥを迎えに行ってからこれは、実行に移すつもりだから」
クルーゼは、優しい瞳でキラを見詰める。
「そうだね。 ムゥ兄さま、除者にしちゃったら拗ねちゃうね」
「だから、待てるねキラ? アスランも」
クルーゼの言葉にキ、ラとアスランは黙って肯いた。
「うん。 だったら早く、お迎えに行こう? ラゥ兄さま」
膳は急げとばかりにキラは、ムゥの迎えをクルーゼにせがんだ。
「では、それまでにもう少しニコルに頼んで、アスハを追い込むための証拠を集めてもらっておきます」
アスランは、自分たちの次に情報処理に長けているニコルにこの後も継続して、
アスハを追い込むための情報の引き出しを依頼する事を述べた。
「そうだね。 徹底的に追い込まないと、這い上がって来られても面倒だしね」
「ああ、私たちはアスハの滅亡が、あの連中がこの世から消えて無くなる事が望だから」
「うん」
「ええ」
「では、ムゥを迎えに行こうか」
「「はい」」
クルーゼノ声と共に三人は隊長室を後にした・・・・・・。
2007/08/08
Web拍手より収納
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