「アスランの頭を撫でられるのって、僕だけの特権だよね?」
僕たちがまだ、平和だと思っていたあの頃。
極端に人と触れ合うことを嫌うアスランが、唯一僕には触れることを許してくれた。
女性不信・・・ううん。
人間不信気味な君が、僕にはその綺麗な心を見せてくれた。
とても眠そうな君の綺麗な紺瑠璃色の髪を優しく撫でたら、とても嬉しそうに微笑んでくれた。
小母様たち以外で、唯一僕や母様たちに心を開いてくれた貴方。
貴方の寝顔を見れるのは、僕だけの特権・・・・・。
04. うたた寝
大掛かりな任務が終了しても、パイロットたちの仕事は終わらない。
今回の任務に必要だった書類を整理し、
報告書を書き終えて提出しなければ、任務を遂行したと言えないのである。
先日、クルーゼ隊が本国の命令を受け【オーブ】の衛星コロニーの一つである【ヘリオポリス】に潜入し、
連合と極秘に共同開発されていたガンダム・・・・通称Gシリーズをすべて奪取した。
そのことで彼らはそれぞれ報告書を製作しており、
そのほかにも奪取してきたMSの整備などで忙しい毎日を日々送っている。
もちろん、それらの任務を担った新しい“紅”服を身に纏う者たちも例外ではなく、
その中でもエースパイロットとしてアカデミーでも万年トップだった紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つ少年もまた、
与えられた自室にて書類の製作に取り掛かっていた。
一方、そんな少年の片割れであり所属の軍であるザフトだけではなく、
本国・・・・【プラント】中に比翼だと認識されている唯一にして絶対無二の存在である
鳶色の長い髪とアメジストの瞳を持つ少女は、同期である少年たちと食堂にて雑談を楽しんでいた。
「珍しいな。 姫が1人でここにいるの」
「そう、かな? アスラン、今忙しそうだったし・・・・」
「書類の整理ですか? 相変わらず、アスランに渡る書類の量は半端ありませんよね」
「そうだね。 ・・・アスランも真面目だから、きちんと書くのも増える原因だと思うんだけどね」
黄金色の髪とヴァイオレットサファイアの瞳を持つ少年は、
食堂にいる同僚の中で紅一点である少女に驚きを隠せなかった。
そんな彼に対し、少女は苦笑いを浮かべつつ自身の片割れである少年のことを思い浮かべた。
そんな少女に対し、若草色の髪とトバーズの瞳を持つ少年は、
自室で何を行っているのか予測が出来たのか僅かに眉を寄せた。
そんな少年に対し、少女もまた同意を示したがその内心では、
これ以上増やさないように釘を刺しておこうと物騒なことを考えていた。
「そんなもの、引き受ける方が悪いに決まっているだろう。 ディアッカ、格納庫に向かうぞ」
「へいへい。 アスランにあんまり無茶するなとでも言っておけば、勝手にどうにかすると思うぜ?」
少女の言葉に白銀の髪とサファイアの瞳を持つ少年は、
不機嫌そうな表情を隠そうともせずにヴァイオレットサファイアの瞳を持つ少年と共に食堂から格納庫へと向かって行った。
少年はそんな幼馴染の言葉に苦笑いを零しながらもすれ違いざまに、
何か考え事をしている少女の頭にポンッと手を乗せた。
少女はそんな少年の行動に驚くことなく少しだけ視線を上に向け、神妙な顔付きで小さく頷いた。
「そういえば、ラスティたちの姿が見えないね」
「彼らは今頃、トレーニングルームにいると思いますよ?
この所、戦闘がなかったので身体がなまっているそうです。
隊長たちの許可の元、トレーニングに篭っていると思います」
「ふぅ〜ん? ・・・・・?」
「キラさん、如何なさいましたか?」
少女は姿の見せない同僚と歳も近く、自分たちと同等の力を持つ先輩の姿が見えないことに首を傾げたが、
トバーズの瞳を持つ少年の言葉に、苦笑いを浮かべながらも納得した。
そんな少女が納得した後にふとどこか遠くを見つめたことに気付いて尋ねたが、
尋ねられた本人は少年の言葉に返事をすることなく遠くを見つめた。
「・・・・ごめん、ニコル。 僕、部屋に戻るね」
少女は一言だけ言い残すと、そのまま振り返ることなく食堂を後にした・・・・・。
「離れていても、アスランの異変には・・・気付くのでしょうか?」
1人取り残された形となった少年が、既に見えなくなった少女の後姿を見つめながら苦笑いしていることに、
誰も気付くことなく・・・・・。
食堂から出た少女の向かった先は、自室でもあり自身の片割れである少年の部屋であった。
ドアを開けてみるもののロックが掛かっており、
苦笑いを浮かべながらもパスワードを入力して開いたと同時に中に入った。
「・・・・・アスラン?」
「・・・・キ・・・・・ラ?」
宛がわれているデスクに膨大な量の書類とディスクの乗っている先で、
目元を押させている少年の姿を見つけると、少女は痛ましそうにアメジストの瞳を潤ませた。
そんな少女の様子に、自他共に至上主義だと認める少年は慌てた様子を見せたが、
何かを発する前に少女の行動によって口の中にあった言葉は、音として発せられることはなかった。
「・・・アスラン、疲れているんでしょう? 僕の前まで、力を入れないで・・・? 僕には、甘えて良いんだよ」
少女は慈愛に満ちた微笑を浮かべると、紺瑠璃色の髪を愛おしそうに・・・優しく梳くように撫でた。
そんな少女の言葉と仕草に、少年は苦笑いを浮かべると座る向きを変え、
少女の腰に抱きつくように両腕を回した。
そんな少年の突発的な行動にも驚くことなく、優しい微笑を浮かべていた。
しばらく経つと、少女は自分の腰に抱きついた格好の少年の腕を優しく解くと、
隣にある2人専用のベッドに座り、ニッコリと微笑を浮かべた。
少年は、少女の行動に対して正確に理解すると、どこか照れた様子を見せながらも嬉しそうに微笑んだ。
「・・・・昔に戻ったみたいだね、キラ」
「そうだね。 けど、さっきよりはこっちの方が落ち着くでしょう?
・・・ちょっとの間寝ても、大丈夫だよ。 アスランが起きるまで、撫でてあげる」
「ありがとう、キラ。 俺は・・・キラに対してだけ、撫でるのも撫でられるのも好きだな」
少女は自身の膝に頭を乗せる少年に優しく微笑むと、先ほどまでしていたように紺瑠璃色の髪を優しく撫でた。
そんな少女の仕草と心音・・・なにより自身のかけがえのない唯一無二と自負する
少女の纏う特な気配を感じる中、眠るつもりがないにしても、規則正しい撫でる動きに、
いつしか美しいエメラルドの瞳が瞼によって覆い隠されていった・・・・。
部屋には、慈愛に満ちた微笑を浮かべる鳶色の髪を持つ少女と、
その少女によって優しく撫でられる紺瑠璃色の髪を持つ少年の完全な深い眠りに達していない浅い眠りと分かる吐息。
そして・・・その少年が少女のために創った
メタルグリーンのボディをした鳥ロボットの機械音だけであった・・・・・・・・。
2007/04/24
Web拍手より収納
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