「大丈夫だよ? キラは、絶対俺が守って見せるから・・・・・・」
時々、目の前にいる最愛の人物・・・俺にとっての大切な人であるキラが消えてしまうような錯覚を感じることがある。
・・・物心付いた時からキラは俺の傍にいた。
キラの本当の両親は・・・いない。
何でも、幼い頃に亡くなったと父上たちから聞いていた。
父上たちはキラの本当の両親と仲が良かったらしく、天涯孤独となったキラを引き取ったのだと。
何事にも関心のない俺が、唯一守りたいと思う存在。
キラは俺が守ると、幼い頃から決めていたんだ・・・・・・・・。
真実の瞳
― 仮初の平和 ―
都市中にある木々に紅葉の色付き始めるこの季節、とある一角にある大きな屋敷の庭でお茶会が行われていた。
和やかなムードでお茶会は始まった。
いつものメンバーでいい香りのする紅茶に美味しいお菓子たち。子どもたちにとって、このお茶会は穏やかな一時である。
「みんな、今日はお菓子を焼いてみたの」
「僕も母からお菓子を貰ってきました。 みなさんで食べましょう?」
鳶色の髪を持つ少女はニッコリと微笑みながら屋敷の奥からバスケットを持って現れた
紺瑠璃色の髪を持つ少年からバスケットを受け取り、簡易に設置されたテーブルに置いた。
定位置に座っていた若草色の髪を持つ少年は自分の隣においていた小さな箱を開け、用意されている皿に移した。
「俺も、いい紅茶が手に入ったから持ってきた」
「イザークの選ぶ茶葉は、いい香りがして美味しいですわ」
銀色の髪を持つ少年が茶葉の入った缶を取り出し、隣にいた桃色の髪を持つ少女に渡した。
少女は微笑みながら受け取った缶の蓋を開け、慣れた様子で目の前にある
白で統一されたティーポットに茶葉を入れてポットに入っているお湯を注いだ。
「紅茶は歌姫が大好きだからな。 香も重視しているんだよ、イザークは。 姫は、クッキーを焼いたのか」
「ディアッカ、口を動かす前に手を動かせ。 キラ、これはこっちに移していいのかい?」
金色の少年が感心したように桃色の少女の手元を見ながら、隣にあったバスケットの中身を確認した。
そんな行動をとがめるように紺瑠璃色の髪を持つ少年・・・アスラン=ザラは制すると後から持ってきた小皿をバスケットの隣に置いた。
「今、蒸しておりますから、もう暫くお待ちくださいな」
「アスランとイザークにはレアチーズケーキを。僕たちはショコラケーキです」
桃色の髪を持つ少女・・・ラクス=クラインは少年たちのやり取りをにこやかに見守りながら手元にあるティーポットに集中した。
若草色の髪を持つ少年・・・ニコル=アマルフィはニッコリと微笑みながら取り分けされたケーキをそれぞれの前に置いた。
和やかな空気が屋敷の庭を満たしている中、この屋敷の周りでは不穏な空気が渦巻いていた。
「・・・この屋敷内に例の者たちがいるとの報告を受けた。 我々の任務はその者たちの拉致。
見つけ次第、速やかに拘束しろ」
「「「「「「了解」」」」」」」
リーダー格の男の命令に従い、黒ずくめの男たちは屋敷内に入ろうと不法侵入を果たそうとした。
一見何のトラップのなさそうな塀に男たちは手を置き、その場所から中へ入ろうとした。
そんな時男の1人が何かに触れた。
男たちに気付かれない間に塀に張り巡らされている感知プログラムが
組み込まれている特殊なシールドによって、屋敷中にある侵入者排除システムが連動で起動された。
そんなプログラムが作動したことは、庭で茶会を開いている子どもたちの様子をリビングから
にこやかに見ていたこの屋敷の主・・・アスラン=ザラの父でもあるパトリック=ザラも常に備えられているPCによって知らされていた。
「・・・・レノア、子どもたちを地下室へ。 私も彼らに知らせてから向かう」
「解りました。 みんな、お茶会は中止よ。 ・・・この屋敷に何者かが侵入しました。此処は危険だから、地下から脱出するわよ?」
パトリックの言葉に頷いた夫人・・・レノア=ザラは庭にいる子どもたちに声を掛けた。
「・・・・俺たちが構築したプログラムが作動したのですか。 ・・・キラ、行こう」
そんなレノアの声に反応したのは息子であるアスランであった。
この屋敷・・・ザラ家のセキュリティプログラムを構築し、
改良を重ねてきたのは専属のプログラマではなく、この屋敷に住む子どもたちであった。
基本的に核となるプログラムを構築したのは鳶色の髪を持つ少女・・・キラ=H=ザラであり、
トラップを主に構築したのはアスランであった。
レノアは息子たちを連れて屋敷の地下室へ向かった。
この屋敷には住人たちにしか知らない隠し通路があり、その通路を通って外へ出ようとしているのだった。
地下室に到着した彼らの目の前には、行き止まりになった小さな部屋があった。
「レノア小母様、此処は行き止まりですわ」
「一見、行き止まりに見えるように造られているの。 此処の扉を開けるのは、私かパトリックしか出来ないわ。
だから、万が一此処が見つかったとしても中から閉じてしまえば、あちらから開けることは不可能よ」
ラクスの言葉にニッコリと微笑を浮かべたレノアは、徐に左手を目の前にある壁へ翳した。
目の前にあった扉は一瞬にして消え去り、奥まで続く長い細い通路が現れた。
そんな彼らの行動を知らない屋敷前の男たちはアスランとキラによって仕掛けられたトラップに見事引っかかっていた。
キラはプログラミング能力に秀でており、ザラ家の屋敷のみならず
幼馴染たちの屋敷のセキュリティも全てキラの製作したプログラムが組み込まれている。
一見、解読不可能な暗号のような配列だが、その性能は市販されているものよりも
遙かに優れており、様々なプログラムを構築するのがキラの楽しみでもあった。
そんな彼らが共同で作り出したのが、自分たちの住む屋敷のセキュリティであった。
アスランもまた、手先が器用なのか好んでマイクロユニットなどハード面を得意とし、
キラの持つ鳥型ペットロボや言葉を話すハロシリーズなどを作り出していた。
今回のトラップもまたハロをミニ型にしてからの『ハロ爆弾』である。
その性能はいたってシンプルで、キラの作ったプログラムで侵入者と認定された者に向かって突進し、
目標物を巻き込んでの爆発だからである。
一方、地下室から地下通路を通っていたアスランたちは不意になぜこんなモノが屋敷の地下にあるのか疑問に思った。
「なぜ、こんな地下通路がこの屋敷に?」
「・・・・私たちはこのことを前々から予測していたの。
その時、外へ逃げる時に正面を押さえられた時ようとして密に地下通路を造ったの。 もちろん、さっきの仕掛けもね」
レノアに先導され長い地下通路を渡っていたイザークが不意に尋ねてた。
その問いに答えたのは前方を歩いているレノアだった。
パトリックは念のために後方を守っており、静かに息子たちの友人の声を聴いていた。
「それで、なぜ俺たちは逃げてるの?」
「・・・・貴方たちを殺そうとする人たちがいるの。
今の私ではそれしか説明は出来ないけど・・・その答えは、これから知ることになるわ」
イザークの質問に答えたレノアにディアッカもまた自分が疑問に思っていたことを尋ね、
その問いかけに僅かに表情を硬くしたレノアに気付いたのは夫であるパトリックと息子であるアスラン、
そして娘のように可愛がられて育てられたキラくらいだろう。
「僕たちは、何処へ向かっているのですか? ずっと、一本道ですけど・・方位がよく分からないので」
「この通路は屋敷の外へ通じる道。 正面には既に彼らが閉めてしまった。 だから、ココを通るの」
ニコルの問いかけに自分たちは屋敷の外へ向かっていると教えた。
その事に驚きを隠せない子どもたちだが、レノアたちの表情を見て認識を改め、再び沈黙が彼らを覆った。
暫くすると暗かった地下通路だったが出口が近いのか地上からの光が僅かに差し込んできた。
「・・・そろそろ出口が近いわ。 ・・・彼らが気付いてはいないと思うけど・・・・油断は禁物よ?」
レノアの言葉にそれぞれ小さく頷いた。
アスランにしては母の言葉を聞く前から隣を歩いていたキラにニッコリと安心させるように微笑み、
自分の後ろに彼女の姿を隠すなど徹底していたが。
一方、ザラ家に大量のトラップが仕掛けられて男たちはそれらにひっかっかっているのを
外から冷静に判断するものと面白がっている2組の少年たちの姿があった。
「何やっているんだ? あいつら」
「・・・この屋敷のセキュリティを構築した者の腕、相当なものだ。
そのセキュリティによって全てのトラップが制御されている」
黒髪を持つ少年は馬鹿にしたように嘲笑い、淡い金の髪を持つ少年は冷静に今までのことを判断した。
「なぁ、俺たちも行ったほうがよくない? このままじゃ任務遂行できないぜ?」
「慌てるな、シン。 俺たちまであのトラップに引っかかればそれこそ本末転倒だ。
俺たちがこの屋敷に来てあいつらが襲撃して早くも数時間が経とうとしている。
しかし、一向に制圧できるどころかやつらを見つけることさえ出来ていないみたいだな。
・・・・確率的に地下か隠し通路でも通って外へ脱出を図るだろう。 俺たちが行動するのは、それからでも遅くはない」
今にも屋敷へ向かいそうな自分のパートナーである黒髪を持つ少年・・・シン=アスカに対し、
今までのことを理解した上で分析をした淡い金色の髪を持つ少年・・・レイ=ザ=バレルは眉一つ動かさずにそう判断した。
レイの判断に反論はあるものの大人しくその場に踏みとどまったシンは
未だ見たことのない今回のターゲットに対し、やり場のない怒りをぶつけていた。
しかし、今までの経験でレイの判断に間違いがないことを知っているシンは
今回大人しく待っていることは間違いじゃないと確信はしている。
しかし、どちらかというと猪突猛進型である。
そのため、以前にも任務中にパートナーのレイの忠告を無視し、自分勝手に行動することが多々ある。
「・・・分かったよ。 今回の任務はどうしてもしくじれないからな・・・・。
それにしても、ギル直々の命令って・・・なんでやつらの抹殺なんだ?」
「・・・・俺も知らない。 ギルにはギルの考えがある。 俺たちはギルによって育てられた。
過去の記憶などないが、ギルの命令は絶対だ」
レイの言葉に眉を顰めたシンだったがレイの言葉は正論のため、何も言えなかった。
柱に背を預けて傍観者体勢をとっていたレイだが、何かに惹かれるかのようにある一点に全神経を向けた。
そのことはシンも感知したらしく、レイ以上の好戦的体勢をとった。
「・・・・さぁ、ココから逃げるわよ」
「待ってください、母上!」
突如レイたちの向けた視線の先にあった壁が動き、その中から女性と少年の声が聞こえた・・・・。
刻は少し遡る。
一本道しかない地下通路を通っていた彼らの前に行き止まりとなる壁が見えてきた。
「義母様、ココは行き止まりだよ?」
「ココがこの地下通路の出口なの。 ちょっとだけ離れていて?」
キラは目の前にある壁に首を傾げながら先頭を進むレノアに尋ねた。
レノアはそんな義娘の問いかけにニッコリと笑みを浮かべながら後ろに下がるよう促した。
アスランたちはレノアの言葉に従って少しだけ下がり、レノアの行動を見ていた。
レノアは入り口にした時のようにゆっくりと左手を壁に翳した。
翳された壁はどういう仕掛けなのかピクリとも動かなかった壁と思えないほどに
徐々にからくりが解除され、一つのトンネルのようなものが出来た。
その先から外を認識することが出来、レノアの言うとおり
今まで通ってきた地下通路は外へ出るための最終手段だということを今更ながらに実感した。
「・・・・さぁ、ココから逃げるわよ」
「待ってください、母上!」
レノアは後ろを振り向き、子どもたちに外に出るよう促した。
しかし、近くから自分の知らない・・・殺気を含む視線が自分たちを見ていることに気づいた。
「どうした、アスラン」
「・・・何かがいる。 みんな、気をつけろ」
その事に気付いた瞬間、自分の隣にいるキラを守るように引き寄せ、後ろにいるイザークたちに注意するよう、声を潜めた。
そんなアスランの緊迫した声に何かを感じたのかイザークたちは静かに頷いた。
慎重に開かれた壁から外界へ出たアスランたちは目の前にいる2人の少年の姿に驚きを隠せなかった。
外見からして自分たちよりも年下だと判断した。
「レイの言ったとおりじゃん。 あんたらが誰だか知らないけど・・・ギルの命令だからあんたたちにはココで死んでもらうよ」
「シン、油断するな。 俺たちの任務はこの者たちの抹殺だ」
「分かってるって、レイ」
黒髪を持つ少年に対し、淡い金色の髪を持つ少年は諭すように言った。
しかし、黒髪を持つ少年は忠告とも言える言葉を聞き流し、嘲笑うような笑みを見せると、
アスランの傍を離れたために隙を見せたキラに向かって手元に持っていた小型ナイフを投げた・・・・。
「キ、キラァァァァァァァーーーーーー!!!!」
自分の半身を狙われたアスランの悲痛な叫びが一帯に広がった・・・・・・。
漆黒の光に晒されたアメジストの輝きを持つ少女。
少女の危機に、至宝とするエメラルドの輝きを放つ少年とサファイアの輝きを放つ少年。
封印されし《力》、守るべき者の為に今、蘇る――――――。
2006/09/19
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